波乱万丈な謁見
それから数日後、今日は王様に謁見をする日だ。
確かSランク昇格パーティーには必ず行われる通過儀礼のようなものだったか。お昼頃に城から送迎の馬車が来るらしいから、それまでに準備を済ませておこう。
そう考え俺はいつもより早起きし、ラミアを起こして宿で朝食を食べていた。数時間後にここの宿の目の前に王家の馬車が来ると知らない人々は、普段通りだった。
「ラミア。分かってると思うけど、今日は城に行くからな」
「はい。それより、服装とか大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫らしいぞ。普段通りの服装でいいらしい。王様も相手が冒険者だってことをわかってるからな」
「確かにそうですね!良かったです!」
俺はいつもとは違う隅っこのテーブルで、ラミアと食事をとっていた。どうせ後で騒ぎになるが、それまでに知られならなければいいと思ったからだ。
俺とラミアは早めに朝食を食べ終え自室に戻り、色々な準備を済ませてから長椅子に座りゆっくりしていた。
座っている横にラミアが腰掛け、俺の肩に頭をこてんと乗せてくる。最近はいつもこんな感じだ。最初はびっくりしたが、俺が頭を撫でてやると気持ちよさそうに顔を緩めていた。俺もつい和やかな気分になれるのだ。
激しい戦闘の連続で、知らずのうちに疲弊していたのかもしれない。俺はラミアの温もりを感じながら、ふと意識を微睡みの中に落とした───
ぺしぺし
「アルマ様〜起きてください」
ぺしぺし
「そろそろ迎えの人が来ますよー」
ぺしぺし
「アルマ様〜」
「んん······ん?ああ、ラミアか」
「ようやく起きましたね。全く、遅れたらどうするんですか」
何故かラミアがぷりぷりと怒っていた。こういう時は素直に謝っておこう。
「悪かったよ。それより、もう馬車は来たのか?」
「もうそろそろ来るようですよ。ささ、準備しましょう!」
「わかった。ありがとうな」
「いえいえ!」
そうして、丁度タイミングよく来た馬車に乗り、世間話や礼儀作法の説明を受けながら、俺たちは王城に向かった。
「それで?此度のSランク冒険者はどのような者なのだ?」
「はっ。名前はアルマ。年齢は十歳。冒険者登録をしたのはほんの数週間前で、この速さでの昇格は異例だと言われています」
「なるほど。それで、その理由は?」
「恐らく、いや間違いなく邪龍討伐でしょう。あの化け物はSS級ですから」
「なんと······ということは、何かしらの褒美を与えるべきだのう」
「そうですね。この国を救ったと言っても過言ではないかもしれません」
うーむ。異例のSランク昇格といえど、SS級討伐までするとは思っていなかった。さすがに何も褒美を与えないというのは、この国を統治する王としてはいけないだろう。私個人も彼に感謝すらしている。
「SS級討伐······どのような褒美を与えれば······」
「お父様······私、その方とお会いしてみたいです」
「ああ、ソフィーナ。いたのか」
考えすぎるあまり近くにソフィーナがいた事に気づかなかった。それより、気になることを言っていたな。
「会ってみたいのか?ソフィーナ」
「はい。写真を拝見しましたが、素敵な殿方でした」
「······わかった。では、謁見の時に私の横にいなさい」
「かしこまりました。······ああ、アルマ様······」
ソフィーナが恋する乙女の目になっていた。わしの娘を誑かすとは······これは責任を取ってもらわねばな······
そう言って、国王レンは静かにほくそ笑むのだった······
俺たちは王城に着き、今は謁見控室のような場所で待機していた。いつ呼ばれるか分からないので、ソファでだらけるようなことはしないでおこう。俺は少し緊張していたが、ラミアはいつも通りだった。本当に羨ましい。
「お前······少しは緊張しないのか?」
「だってご主人様が隣に居るんだもん。私にとってはご主人様が一番ですから!」
「······ありがとうな」
ラミアのお陰で少し緊張がほぐれた。本当にこう言う時彼女の性格は助かる。二つの意味でラミアに感謝を言った後、召使いの人に呼ばれ謁見の間に向かった。
そして俺たちは今、絨毯を進んだ先の場所で平伏する姿をとり、王様と対面していた。すると王様から声がかけら
れる。
「面を上げよ。アルマ、ラミア。私は国王レン。そばに控えているのは私の娘、王女ソフィーナだ」
「どうぞお見知りおきを」
レン王の紹介が入った後、ソフィーナ様がスカートの端をつまむようにして、優雅にお辞儀をした。
水のように綺麗な青色の髪。少し肌白な体の上に、髪の色と同じ青色のドレスを着て、頭には黄金のティアラを付けていた。贔屓目抜きにしてめちゃくちゃ可愛かった。
すると、ソフィーナ様が妖艶で、どこか幼さを感じさせるような微笑みを向けてきた。可愛さのあまり頬が緩みそうになるが、場を弁え気を引き締め直す。
「私は冒険者のアルマ。こちらはパーティーメンバーのラミア。今回、陛下のご尊顔を拝見することが出来、至極光栄にございます」
「ああ、そのような話し方は窮屈だろう。いつも通りの話し方で良いぞ」
「ありがとうございます。レン国王」
意外と寛容な人なのだなあと俺は思った。
「時にアルマよ。お主はSランクに昇格したそうだな?」
「はい」
「しかもそれだけでなく、将来国の脅威になりうるであろう邪龍を討伐してくれた。ローランス国王として、お主に何か褒美を与えようと思っているのだが、どのようなものを望むかな?」
「褒美······ですか」
「ああ。出来る範囲内であれば何でも構わんぞ」
その言葉に謁見の間がどよめく。そしてそのうちの一人がレン王に進言していた。恐らく上級貴族だろう。
「お言葉ですが陛下。何もそんなものまで与える必要はないのではございませんか?」
「では聞くが、お前はSS級の魔物を単独で討伐できるのか?」
「それは······」
「私は純粋に彼に感謝している。だからこそ、国王として褒美を与えたいと思っているのだ」
「わ、わかりました······」
そう言ってその人は下がった。なかなかいい王様じゃないか。
「それでアルマ。何か望みはあるか?」
「······私からは特にはございません。Sランク昇格を認めてもらうだけでも十分です」
「そうか······では、うちのソフィーナを貰うというのはどうだ?」
「··················えっ!?」
この人は突然何を言っているんだ。自分の娘であり王女を嫁に出すなどさすがにやりすぎではないのか。
「お言葉ですが陛下。さすがにそれは申し訳ないというか······ソフィーナ様の意思もありますし······」
「あら。私は問題ありませんよ?むしろ、貴方様なら全てを委ねても構いません」
「───」
「アルマ君。勿論無理に結婚しろとは言わない。何度か交流を深め、その上で君が良いと思ったなら、彼女の想いを受け止めてやってほしい」
「······分かりました」
王様の頼みとあらば、どんな理由があろうとも断るわけにはいかない。俺は渋々承諾した。
「う〜······」
その俺の横では、ラミアがどす黒いオーラを放っていた。
「一応ラミア君のためにも言っておくと、この国は一夫多妻制だから二人とも結婚することは出来るぞ」
そのレン王の言葉を聞いた瞬間、ラミアのオーラが黒色から桃色に変わった。こいつチョロすぎるだろ。
そしていよいよ逃げ場のなくなった俺は、熱を孕んだ瞳を向けてくる王女様を尻目に、ガックリと項垂れた。
2章ももう少しで終わると思います。
今後も普通に続いていくのでよろしくお願いします。
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