取り戻したモノ
奴隷商を後にし、俺はラミアと一緒に「安らぎの宿」に戻ってきていた。受付の女将さんは驚いていたが、事情を説明してお金を払ったら何事もなく通してくれた。
そして俺は部屋のベッドに腰掛けて、ラミアと対面していた。ラミアは最初、ご主人様と同じベッドに座るなんてとんでもないなんて言い出したが、さすがに床に座られるのも嫌なのでなんとか説得して横に座ってもらっている。
「それで······ラミアを買った理由なんだけどさ」
「はい······」
「俺の身の回りの世話をして欲しいんだ」
「······え?」
「俺、家事がからっきしでさ。料理は作れないし、掃除は遅いし、だからラミアにそこを頼みたいんだ」
「·········」
ラミアは何も発さずに俺の方を見つめてくる。そして俯き、顔を伏せてしまった。ウサミミも垂れ下がっている。
「なぜ······私なのですか?」
「どういう事だ?」
「私には両手がありません。アルマ様の世話はおろか、自分のことすら満足にできないのです!なのに······なぜ私なんかにそのようなことを頼まれるのですか!」
ラミアは叫び、「なんで······なんで······」と繰り返していた。思った以上に彼女は追い詰められていたらしい。
いや······俺が追い詰めてしまったのかもな。
こういう事を言われるのはある程度は予想していた。だから、俺は本心を包み隠さず彼女に伝える。
「理由なんてないよ。俺はラミアと暮らしたいと思ったんだ。それじゃダメかい?」
「───」
俺は、これ以上彼女を傷つけないようになるべく優しく、自分の思いをラミアに告げた。
それを聞いたラミアは固まり、ゆっくりと顔を上げ、俺の方を見てきた。何かに縋るような、そんな目をしていた。
だから俺は、彼女に優しく微笑みを返す。
すると、ラミアの瞳から一粒の涙が流れ、頬を濡らす。
彼女の体が小刻みに震え、嗚咽混じりの声が聞こえてきた。
「アルマ様っ······アルマ様ぁっ······」
俺の名を呼ぶラミアは、とても儚く見えた。俺は彼女の傍まで行き、腕のない体ごと彼女を抱きしめる。
あるはずのものがない違和感があったが、構わずさらに抱きしめる。自分が抱擁を返せないことを悲しく思ったラミアだったが、だんだんと様子が落ち着いてきたようだ。
「もう大丈夫か?」
「はい······取り乱してしまい申し訳ありませんでした······」
そう言う彼女は、小さいながらも笑みを浮かべた。俺も思わず気が緩んでしまうが、気持ちを切り替えてついにその事をラミアに告げる。
「ラミア······俺なら君の怪我を治せるよ」
「············え?」
信じられないといった表情をしていた。それも仕方ないかもしれない。部位欠損を修復する魔法はLv.5相当だ。習得しているなんてそうそうないのである。
───俺を除けばの話だが。
「治せる······んですか?」
「ああ······ラミア。こっちに来てくれ」
そう言うとラミアはおずおずとこちらに近づいて来てくれる。俺からも彼女に近づき、互いの顔が近づく。ラミアが少し赤面していたが、俺は構わず詠唱した。
「完全治癒」
俺が完全治癒を唱えると、彼女の両腕が完全に復活し、元通りになっていた。彼女自身も憑き物が晴れたような表情をしていた。
「ああっ······!あるっ······!私の腕があるよ!」
「良かったな。これで、もう大丈夫だろ?」
そう言って俺はもう一度彼女を強く抱きしめる。すると、彼女も熱い抱擁を返してきた。途端に彼女の瞳が熱を孕み、大粒の涙が零れた。
「うぐっ······ひぐっ······」
ラミアの心の熱を感じながら、俺は泣きじゃくる彼女の背中をさすり、いつまでも抱き続けていた。
心の傷が、愛情という名の炎に溶けきった瞬間だった。
自分で書いていて少しウルっと来ました...笑
ラミア良かったね...!笑
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