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U-Rei -72の古物-  作者: ねこじゃ・じぇねこ
16.愛欲の香水瓶〈ゼパル〉

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中編

 眠りから覚めた時、私はまだ夢の中を彷徨っているのだと思った。

 そこは座敷ではなく、壁の取り払われたとても広い空間だった。周囲には大量の白い羽根が落ちていて、とても柔らかい。ずっと眠っていたいほど心地よかったのだが、そのあまりのリアルな感触に、頭も段々と冴えてきた。


 はたしてこれは、本当に夢なのだろうか。

 疑問がいよいよ深まってきたその時、私に話しかける人物が現れた。


「あれぇ? 幽お姉さんじゃないですかぁ」


 間の抜けたその声に振り返り、私はしばし茫然としてしまった。

 そこにいたのは金髪碧眼の美少年。ウサギ耳と尻尾のついた服を着て、不思議そうに私を見つめていたのだ。


「メ……メタ君?」


 あまり会う機会はないが、決して知らないわけではない。そこにいたのは間違いなく、霊が自分の影の中で保護している〈金の卵〉の少年メタモルフォセスだった。しかし分からない。何故、私は彼とこうして対面しているのだろう。だって彼がいるのは霊の影の中のはずで、そこは特別な手順がなければ入れない世界のはず。


 やっぱり、これは夢なのだろうか。


「どうしてメタ君がここに?」

「それは、こっちの台詞ですよ。だってここ、霊様の影の中なのですよ?」

「ええ?」


 一気に目が覚めて、私は立ち上がった。


 悪い夢か冗談か。そのどちらかを疑ってみようとしたが、見渡せば見渡すほど目が覚める様子はなく、踏みしめれば踏みしめるほど、私は確かにここにいた。

 間違いない。これは夢じゃないのだ。夢ではなく、本当に、霊の影の世界にいる。


「え、なんで? なんで私、霊さんの影の中に? え、なんで?」

「さあ? 霊様の考えが変わっちゃったんじゃないですか? ここなら怖い人もやってきませんからね。なんせ、〈金の卵〉も殺されない、とっても安全な世界ですから。〈赤い花〉も安心して咲くことが出来ますよ」


 メタの純粋な笑顔に、一瞬だけ背筋がぞくっとした。ひょっとして、そうなのだろうか。霊の気が変わってしまって――。そう考えかけてすぐに、私はあることを思い出した。


「違うはずだよ、メタ君。だって、私、ダンピールだもの」


 ダンピール――吸血鬼の血を引いているということが、これまでに役に立った試しはない。吸血鬼を殺せる力を持つというのもどうやらガセであるようだし、吸血欲求とそれによる特別な力も何もない。

 もしも魔女の心臓も受け継いでいなかったとすれば、私はただの人間に過ぎなかっただろう。けれど、そんなダンピールであってもマテリアルの血を引いているから、マテリアルの魔術のいくつかに抵抗力があるらしい。霊はよくそれを悔やみ、率直に私に伝えていた。


 ――しまっちゃえるのなら、しまいたいくらいよ。


 だから、無理やりということはないはずだ。


「そっかあ。じゃあ、なんででしょうね?」


 心底不思議そうにメタは首を傾げた。

 私はため息交じりに周囲を見渡した。このままこの場所から出られないとなればどうなってしまうのだろう。霊はどうしているだろう。彼女の影の中のはずなのに、彼女を傍に感じる事がどうしてもできない。それがとても辛かった。


「何ででもいい。早くここから出ないと」


 いつものように二人でお仕事を。当たり前の日常だが、遮られることがとても怖かった。


「ねえ、メタ君。出口を知らない?」

「出口、ですかぁ?」


 目を丸くして、メタは言った。


「ごめんなさい。ボクには分からないや。あ、でも、もしかしたら“彼女”なら知っているかもしれませんね?」

「彼女って……ウァサゴちゃんのこと?」

「いいえ、夜蝶やちょう様のことです」


 その名を反芻し、私は口を閉ざした。


 夜蝶という人物には、前にも会ったことがある。

 彼女が霊の影に暮らすことになった時、私はその場に立ち会った。夜蝶は不老不死の吸血鬼――屍蝋しろうという種族の女性であり、命を奪うことが出来ない為にここに封印されたのだ。


 屍蝋の多くは細々と暮らしている無害な存在だが、一度、危険な存在になればそれだけ厄介なものだ。夜蝶の場合もそうであり、私の父のように……いや、父以上の脅威となったことがある。

 しかし、曼殊沙華にまで牙を剥いたのはさすがに不味かった。さすがの屍蝋も数と策には負け、彼女はまんまと囚われた。影の世界の主人でもある霊によれば、籠に閉じ込め、長く退屈な時間を過ごさせているらしい。


 捕えたその時に見た、その姿を思い出し、私は息を飲んだ。

 夜蝶を捕らえる時、私はその手伝いをした。したというか、させられた。世にも珍しい〈赤い花〉の獲物として彼女を挑発し、誘き出すというとても危険な囮役をやったのだ。

 夜蝶はきっと罠だと知っていただろう。それでも、彼女はそれに乗った。何故、乗ったかは分からない。自信があったのか、それだけ飢えていたのか。

 ともあれ、その時に見た血走った目が忘れられない。思い出すと、今でも不安な気持ちに苛まれる。


「夜蝶様は霊様の世界の事をよく知っておられるのです」


 メタは能天気にそう言った。


「夜蝶は籠の中にいるんでしょう? どうしてこの世界の事を知っているの?」


 率直に訊ねると、メタは快く教えてくれた。


「霊様の中にいる魔の中でもとてもお強い御方です。だから、籠から出られなくても見通す力があるんです。それに、影の中にはいろいろな人がいます。並々ならぬ存在感に惹きつけられて、夜蝶様の言うことを聞く魔物もここにはたくさんいるんですよ」


 何だか不気味な話だ。ここに閉じ込められている以上、全員が霊の配下であるはずなのだが、その中で統率が生まれているのは少し怖く感じた。

 メタやウァサゴたちのように、気ままに過ごしているだけなのならいいのだが。


「ねえ、メタ君。夜蝶は本当に出口を知っていると思う?」

「さあ、僕にはわかりません。僕は弱いから、霊様の指示に従ってここでいい子にしていることしか出来ないんです。でも、夜蝶様はお強いから、霊様のことを隅々までご存知のようですよ。だから、夜蝶様に聞いてみた方が早いと思います」


 きっぱりと言われ、私はまた悩んだ。


 聞きに行ったとして、果たしてまともに話してくれるだろうか。捕らえる前の様子だと、普通に会話をする知性はあった。気性は激しくなく、むしろ冷静。霊よりもさらに長く生きているようなので、それなりの落ち着きがあったのだろう。だが、そうであっても自分が自由を奪われた原因たる私とまともに会話をしてくれるとは、とても思えなかった。

 それでも、まず頼るなら彼女だ。この世界の誰よりも霊のことを知っているのだというのなら、ダメ元で聞いてみようじゃないか。

 緊張と、不安と、そしてほんの少しの対抗心も抱きつつ、私はメタに訊ねた。


「ねえ、メタ君。夜蝶のところまで案内してもらえる?」


 すると、メタはぱっと目を輝かせて笑みを浮かべた。


「はい!」


 元気のいい返事と共に、メタは駆け出していく。無邪気に走る彼の後ろ姿は、まるでおとぎ話のようだ。果てしなく続いていながら、何処にも繋がっていない世界。霊の影の中は心の中でもあるという。囚われた者たちが暮らす無限の世界を駆け抜けながら、私はひたすらウサギ少年を追いかけた。

 そして、その場所にたどり着いた。

 大きな籠が無造作に置かれたその場所。周囲は影絵で出来たお城のようで、美麗だが物寂しい。色も殆どなく、生き物の気配も殆どない。そんな場所で、退屈そうに寝そべっている彼女だけが、異様なまでに存在感を示している。


「夜蝶様、こんにちは!」


 メタが元気よく声をかけると、彼女は寝そべったまま野良猫のような表情で私たちを振り返って来た。以前観た時よりも顔色は悪く、痩せこけている。ただ、その目だけは真紅に染まり、マテリアルよりも生気のない不気味な色を宿していた。

 当然ながら、そこに友好的なものは一切感じない。言葉に出来ない緊張感が漂う中、メタだけが空気を読まずににこやかに声をかけた。


「お具合はどうですか? 今日もこの世界は、とてもいい天気ですよ!」


 無言のまま夜蝶は私たちを見つめている。乱れ髪の下から覗いてくるその姿は、まるでオカルトものに出てくる幽霊のようだ。ひょっとすると、あらゆる怪談話に登場する亡霊よろしくこの世界への恨みつらみがあるかもしれない。

 だが、そうだとしても彼女の知性までは失われていないようだった。夜蝶は私の姿を見つめると、急にその目に輝きを取り戻した。まるで楽しい玩具でも見つけたかのように。


「やあ、君か。怯えているようだな。愛する主人のものだとしても、この世界に囚われるのは怖いと見た」


 嘲笑する彼女を前に、メタが困惑する。


「あの……夜蝶様なら出口をご存知だろうと思ってボクがここまで案内してきたんです。幽お姉さんはダンピールだから、囚われるはずがないのですって」


 その言葉に夜蝶は不機嫌そうな反応を見せる。


「確かに、知ってはいる」


 その堂々とした口ぶりに、私は思わず食いついた。


「教えてください!」


 と、その時だった。

 夜蝶の立つ方向から、甘酸っぱい香りが漂ってきた。その香りには覚えがあった。独特で、狂おしいほど好ましく感じる奇妙な香りである。


「これは……〈ゼパル〉の香り?」


 ピンときたその時、夜蝶が高笑いした。


「教えてやってもいいが、対価を貰う」

「対価?」

「幽、だったな。喜べ。期待通りだ。私はお前の知りたいことを知っている。この影の世界の誰よりも、私は霊の心を探り、そして同調し続けているのだ。だから分かる。今のお前はこの世界にいるようでいない。身体はこの世界の外にいて、一時的に心だけがここにいる。私と同じように、霊の所有物として。……どうやら、この香りが鍵のようだな」

「〈ゼパル〉の力で、心だけがここに?」

「そういう事だと思う。だが、この効果は永続的なものじゃない。その証拠に、あの女はさほど恐れてはいないように感じる。焦らずともこのまま時間が経てば、香りの効果は消え、お前は目を覚まし、何事もなかったようにこの世界を去ることが出来るだろう。探さずとも出口の方からやってくるのだ」


 つまり、〈ゼパル〉の香りが消えれば、というわけだ。

 安堵のため息を吐いたその時、夜蝶は含み笑いを漏らした。


「さて、対価を貰う番だ」


 その言葉に疑問を抱くも束の間、夜蝶の鋭い声が響いた。


「幽、お前に命令する。私の目を見ろ」

「……えっ?」


 気づいた時には遅かった。夜蝶の赤い目から目を逸らせず、私は固まっていることしか出来なかった。外見は霊とあまり似ていない。それなのに、何故か、その瞳に、無性に惹かれてしまったのだ。

 何故なのか。私はすぐに気づいた。香りだ。〈ゼパル〉の香りが、彼女からする。これのせいだ。だが、分かったところで抗うことはとてもできなかった。


「夜蝶様、いったい何を?」


 異変に気付いたメタがすぐに問いただすと、夜蝶は悪びれもせずに答えた。


「せっかくの機会だ。試してみようかと思ってね」

「試すって何を?」


 メタの問いに夜蝶は笑う。


「この不可思議な力の効果だ。全て、ここから聞いていたぞ。一時的であったとしても、及ぼす影響は多大なもの。私に屈辱を与えたあのマテリアル女に一矢報いることが出来るかどうか。そして、純粋に興味がある。この精神世界での介入が、どれだけ現実世界を脅かすことが出来るのかどうか。それを試してみたいんだ」

「それって……」


 メタは少し考え、目を丸くした。


「だ、ダメですよ、夜蝶様! 霊様に歯向かうつもりですか!」

「うるさいウサギだ。しばらく黙っていろ」


 夜蝶が一喝すると、メタの姿が溶け出した。あっという間にウサギに変わり、おろおろと周囲を見渡し始める。その姿を見て、夜蝶は満足そうに微笑んだ。


「いい気味だ。私を誰だと思っている」


 そして、片手を優雅に持ち上げ、夜蝶は私に向かって命じた。


「さあ、幽。私の手の届くところまで来るんだ。香りが消えてしまう前に、存分に楽しもうじゃないか」


 下腹部から下が震え始めた。

 気を抜けば、今すぐに言う事を聞きそうになってしまう。これが完全なる夢であったなら、私は我慢できなかっただろう。しかし、単なる夢ではない。この誘いに乗った後、目覚めた私の肉体に、どんな影響が出るのか。考えただけでも恐ろしい。それでも、いつまで耐えられるか分かりやしなかった。


 夜蝶は私の主人なんかではない。世間で暴れ、人々を脅かし、曼殊沙華を敵に回し、そうして捕獲することになった日、私は彼女にわずかな同情を抱きつつもここまで見惚れたりはしなかった。美しく、強そうな吸血鬼ではあるが、我が主人の霊とは全く違う。憧れるようなものを持っている存在ではなかったのだ。

 それなのに、今は違う。霊に囚われてからの彼女は、良くも悪くも霊の一部になってしまっているのだ。そこを武器にされたとき、私は自分の弱点を突きつけられる。ああ、段々と夜蝶が霊に見えてくる。これが夢だったら、どんなに楽しい思いが出来るだろう。僅かであっても浮かぶ期待が、私を歩ませようとする。


「だ、ダメ。そんなこと出来ない!」


 どうにか口に出して私は拒絶した。震えは治まりそうにない。目を逸らすことも出来ず、歩み出さないでいられることが奇跡だった。今も見えない波が背中を押しているようだった。魔女の性はその波に乗るようにといっている。その手を取れば、夜蝶は私の魔女の性すらも満たしてくれるだろう、と。私は抗った。当然だ。だって、相手は霊じゃないのだから。これは裏切りだ。霊に対する、そして、自分に対する裏切りになってしまう。


 だが、夜蝶は容赦しなかった。


「我慢することはない。本当は今すぐに可愛がってもらいたいのだろう? 屍蝋の愛はマテリアルよりも深い。それを体に刻み込んでやろう。なに、心配いらない。今の私はお前の愛する主人の一部のようなもの。お前が外の世界で何かを宿すとすれば、それは愛する人の子に違いないだろう」


 手招かれ、一歩だけ足が動く。


「……いや」


 そろそろ限界だった。


「おいで、幽。楽しもうじゃないか」


 このまま彼女の手を取れば、どうなるだろう。ウサギになったメタが心配そうに私を見上げている。だが、私は彼に視線を返すことも出来ない。手を取って、触れられれば、たとえ籠越しであってもきっと影響は免れない。その後で解放されて、目覚めた私を待っているのはどんな未来だろう。

 けれど、気付けば、私は少しずつ歩みだしてしまっていた。〈ゼパル〉の香りが呼んでいる。今すぐに彼女の言うことを聞くようにと。従えば、楽しいことが待っている。欲しくて、欲しくて、堪らなかった。


「そこまでよ、おバカさん」


 その時、冷ややかな声がこの場の空気を一変させた。ガラスの割れるような音が響き、彼女は突然現れた。

 霊だ。空から舞い降りてきた。片手に持っている木刀〈ベール〉の矛先が、私の進行を妨害する。そして、猫のようにしなやかに着地すると、なおも歩みだそうとする私の身体をその背中で抑え、まっすぐ夜蝶を睨みつけた。


「メタモルフォセス、姿を戻して」


 霊の静かな一言で、様子を窺っていたメタのウサギ姿が解けた。


「霊様! ありがとうございます! あの――」


 慌て気味に説明しようとする彼を霊は制し、さらに命じた。


「説明はいい。後は任せて。あなたはここから離れて。他の誰かと遊んできなさい」

「わ……分かりました!」


 逆らおうという素振りも見せず、メタは小鳥になって羽ばたいていった。

 彼の気配が遠ざかると、さらに場の空気が冷えたように感じた。〈ゼパル〉の香りはまだ消えていない。それどころか、霊が来た分だけさらに強まった気がする。


「よく耐えたわね、幽。あと少し、辛抱して」


 霊が小さな声でそう言った。その瞬間、私は泣き出しそうになってしまった。

 一方、夜蝶の方も全く動じてはいない。


「まあ、間に合うとは思っていたさ。さすがは我が主様だ」


 皮肉たっぷりにそう言うと、笑みを噛みしめる。そんな彼女に霊は告げる。


「変わらず元気そうね、夜蝶」

「お陰様で。そっちも元気そうで何よりだ。私を呼び出したりもせず、殺伐とした世界をうまく生きているらしい」

「見えているのなら放っておいて。この安全な籠の中で隠居しているといいわ。飢えのないこの世界でなら、あなたを追い詰める人間なんかもいないはずよ?」

「隠居、ね。一体いつまでこんな日が続くのやら。平和すぎるのも退屈なものだ。そう思わないか、お二人さん。少しは刺激がある方が、愛の甘みも味わいが深くなるものだ。何なら試してみるか? 私がここから刺激を与えてやってもいい」

「いらない」


 霊はきっぱりとそう言って、一歩、私を後ろへ下がらせた。


「あなたの手は借りない。借りずとも十分よ。この子のご主人さまは私なの。そして、あなたのご主人さまもこの私。いいこと、夜蝶。あなたは私じゃない。私もあなたじゃない。覚えてなさい」


 強い口調で言い聞かせる霊を前に、夜蝶は嘲笑う。


「分かったよ。覚えておこう。だが、そちらも忘れるな。私は常にこの場所からお前の内面を見つめている。ここに囚われた誰よりも、お前の心を見通している。お前が決して“完璧なご主人さま”ではないことを、私は自分の事のように知っている」


 淀んだ瞳を私たちに向け、夜蝶は囁いてきた。


「そうだ。話してやろうか。溺愛するその玩具にも聞かせたことのないような、ともすれば、お前自身が気づいていないような、お前の本音について」


 その時、〈ベール〉を握る霊の手が少しだけ震えたような気がした。動揺している、のだろうか。私もまた不安になった。怒りには思えなかった。まるで何かに怯えているような、そんな気がしたのだ。

 だが、その何かが定かになる前に、霊の手の震えは止まった。


「興味深い話だけれど、そろそろ時間みたい」


 彼女がそう言った時、私は変化に気づいた。〈ゼパル〉の香りが消えたのだ。途端、頭がくらくらし始めた。急激な眠気に襲われ、瞼が重たくなっていく。薄れゆく意識の中で、私は霊の言葉を聞いた。


「幽、安心してそのまま眠りなさい。実験はこれで終わりよ」


 そこで、意識はぷっつりと切れた。

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