世界大会編「発破」
ロッカールームに響いた怒声にチームメイト誰もが驚いた。
いつもは冷静沈着な樫原が発したものとは凡そ思えなかったからだ。
負けん気の強い光宗もこれに応戦する形になる。
掴み合いになった二人を俺と唐澤さんが慌てて止めに入るが2人には収まる気配がない。
「お前に舞川さんの代わりが出来るわけないだろ!」
「うっさいわ!そんなん俺が一番わかっとんねん!」
いきり立つ二人を収めたのはやはりキャプテンの一声だった。
「いい加減にしろ!ここでお前達が揉めて何になる!」
そしてキャプテンの叱責で静まり返る一室に和みを与えたのはマイペースの米田さんだった。
「まぁまぁ、光宗ちゃんはちょっと頭をシンプルにね。それからカタギっちもクーリング!勝って美味しいお米でも食べようよ!」
米田さんの一言でロッカールームに明るさが取り戻され、老将マッテオーリはホワイトボードを笑顔で軽く叩いた。
「ヨネダの言う通りだ。なーに?お前達は心配しなくても強い。自信を持て。俺の祖国を倒したんだ。」
仕切り直した日本チームはロッカーアウトし、ピッチへと向かう。二人の会話がない事が気がかりだったが彼らもプロである以上、雑念を取り払ってプレーに集中してくれるはずだ。
後半が始まると俺たちは見違えるようにテンポのいいサッカーを展開する。
光宗は来たボールをダイレクトで捌き、樫原も得意のドリブルを効果的に仕掛ける。
メキシコも一歩も引かずに激しく攻め合う展開に会場のボルテージも上昇、両チームともにダークホースの名に恥じない好ゲームを展開していく。
後半は時間の経過も早く、残り15分に差し掛かったところでついに俺達が試合を動かす。
中盤で俺がボールを奪うと素早く樫原に預ける。
メキシコディフェンスが樫原のドリブルに意識が向いた時、樫原全線へとフライパス。
バウンドしたボールはさらにトップスピンでスピードを上げる。
「仲直りだな。」
隣で賀茂さんが呟いた。フライパスは光宗にとって絶好のシチュエーション、豊富なスタミナ、驚異的なスプリントでメキシコディフェンスをぶっちぎった光宗は落ち着いてキーパーとの一対一を制する。
殊勲のスコアラーの元へ皆が駆け寄る中、俺は樫原とハイタッチしてから声をかける。
「樫原、行ってこいよ?」
「君はたまにお節介だよ。ありがとう。」
少し照れた表情をしながら樫原は光宗の方向へと走る。
日本の至宝は時に温度が感じられないと揶揄される事があるが、とんでもない。彼は冷静だが、内に秘めるものは誰よりも熱い。
「さっきはすまなかった。ナイスゴールだ。」
「いや、カタギのおかけで吹っ切れたわ。ナイスパスやで!」
二人は拳を合わせ、再びチームメイトの手荒い祝福を受けた。
「日本の育成年代の結晶ですね。」
放送席では修さんが興奮気味に語っている。
「今のゴールは懸上、樫原、光宗が関わりましたが、彼らは皆高校サッカー出身、年代別世界大会の経験者です。こうしてナショナルチームで、世界大会で結果を出したのはもちろん彼らの努力の賜物ですが、育成に関わる全ての人の成果です!」
俺は試合後にこの放送を見たのだが、修さんも俺たち若手を育ててくれた大事なキーパーソンだと強く感じた。
駆け出しの俺と光宗の面倒を見てくれたのは修さんを初めとするベテランプレイヤー達だった。
試合はと言うと、攻めるしかなくなったメキシコは今大会初めてバランスを崩した、いつも通りを発揮する事が難しくなったチームの規律は崩れ、俺たちはさらなる追加点2点を加え、3-0でクウォーターファイナルを突破する事に成功した。
敗れたメキシコにも盛大な拍手が送られる中、ついに俺達はベスト4に登り詰めた。
次なる相手はサッカー王国ブラジル。
名実ともに最強の敵を相手にする事になった。
新シーズンも開幕して我が心のクラブも開幕してついに勝ち点3。獲得しました...トホホ...笑




