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世界大会編「働き蜂」

優勝候補であるレ・ブルーことフランス代表。

首都ローマの地で決勝トーナメント1回戦を戦う。

ベスト8進出をかけた一戦は残り15分。なんとフランスは3点ビハインドを背負う展開。

予期せぬ展開に会場は不穏な空気が流れる。


一方メキシコスタンドはラテンのリズムで踊り狂う。

「メキシコの中盤は働き蜂だな。賀茂さんが何人もいるみだいだ。」

俺の右隣で呟いたのは実村さん。ノートにメモを取りながら、冷静に試合の戦況を見つめる。

実村はとにかくサッカー馬鹿だ。四六時中サッカーのことを考えているし、ノートには対戦してきたチームのメモがずっしり書き込まれており、サッカーIQの源になっているらしい。

「ハハっ。それは恐ろしいな。でも確かにその表現は正しいよ。とにかくハードワークしている。女王蜂も今日は冴えてるしな。」

左に座るのが竜崎さんが言うようにメキシコの中盤はとにかく走っていた。恐らく試合と押して15kmほど走っているのではないだろうか、絶えず働き、ボールを回収すると、女王蜂であるロサーノへボールを配給する。


「この手のハードワークにフランスが慣れていないはずがないんだけどね。今日の彼らは何かがおかしい。」

樫原が言うように、言語化できない「何か」を俺も感じていた。

普段見られないようなミスが頻発していた。

「いや、フランスにも活きがいいのがいますから、皆さん見ててください。」

フランの切り札がピッチへと足を踏み入れる。

俺のチームメイト、シャルドネだ。

10代にしてチームの特攻隊長を務めるシャルドネはフランス代表のジョーカー的立ち位置だ。

投入されたシャルドネはいきなりチャンスを演出する。

得意の切り返しの深いドリブルでペナルティエリアに侵入すると意表を突いたループシュートでゴールを陥れる。

ついに一点を返した、フランスが反撃体勢に入ると思われた。


1-4。優勝候補が衝撃のスコアで敗退する事になった。

一点を返し前がかかりになろうとした所でのダメ押し点はフランスの余力を奪った。

ジェルマン、バソング、クロウは項垂れ、途中出場でゴールしたシャルドネは人目をはばからず号泣した。

メキシコは俺たち日本と同じくベスト16の壁をついに突破。

決勝トーナメント初日と二日目で最大級のサプライズが起こった。


その夜、バソングから着信があった。

「タケル。お前と対戦したかったんだけど、すまなかった。」

悔しさを押し込めるように発される言葉に俺は胸が苦しくなる。

言葉を選んでいるとバソングは次の言葉を口にする。

「いや、伝えたい事はこれだけだ、次の試合勝てよ。」

「ああ、わかった!」


通話を終えたスマホをポケットに入れて俺は目を閉じる。

宿舎ですれ違った樫原もクロウから同様のメッセージを受け取ったらしく、俺たちは全力を期すことを誓った。

四年に一度の祭典。

全てをかけているのは俺たちだけではない、敗れたフランスも、俺達が倒したイタリアもそうだ。

彼らの想いも背負って俺たちは次のメキシコ戦へ向けての準備を進める。

連日暑いですねー· · ·

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