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世界大会編「直訴」

ゴールラインテクノロジーや、ビデオ判定、通称「VAR」などの技術が普及した現代フットボールにおいて重要度が増したセットプレー。

それは時に劣勢のチームが形成を逆転するきっかけになり、時に均衡したゲームに風穴を開けるリーサルウェポンにもなり得る。

そして前半終盤、イタリアボールのフリーキックがセットされていた。


キッカーはイタリアの太陽ことセルジーニョ。

右サイド寄りゴールから、30メートルの距離から直接狙うのは難しい。

俺たちはエリア内のマーキングを明確化する。

レフェリーの笛が鳴り、セルジーニョが助走を開始すると、コンティだけがエリア内から離れる。

「まずいっ!」

マークについていた右松さんが慌てて着いていこうとする。

「止まれ!フェイクだ!」

竜崎さんが右松さんを食い止め、ニヤケ顔になりかけたコンティは舌打ちする。

マークの混乱を寸前で食い止めた俺たちはセルジーニョの放ったクロスボールに対して冷静に対処する。

「さすが竜さん!」

「ナイスキャッチ!シゲ!」

ジャンプ一番守護神の徳重さんがボールをパンチングし、竜崎さんが大きくクリアした後、2人はハイタッチし、直ぐにポジションを修正する。


「さぁさぁ今度は任せてくれよ!」

アバウトなクリアボールを舞川さんが絶妙なトラップで収める。

「ふん、どうせキープだろ?」

「今まで、ならな。」

舞川さんのツータッチ目を狙ったシリウスの股下を通し、カバーリングに入ったカルドナも弾き飛ばし、舞川さんは完全に抜け出す。

舞川さんはスピードを上げてゴールへと突進する、ゴールまで残り20メートルだが、舞川さんは足を止めた。

「いや!なんでだよ!」

レフェリーの笛が鳴っていた。

直前の接触で舞川さんのカルドナへのファールを取られていた。

「マイちゃん!カッカしない!」

レフェリーに詰め寄りそうなところを親友の米田さんが引っ張り、切り替えを促した。


結局前半は両者睨み合いのまま進み、ロッカールームへと引き上げる。

解説の修さんは実況アナに前半戦の感想を促される。

「柊さん、前半どうでしたか?」

「はい、悪くないと思いますよ。今の所、ジョルジーニョに仕事はさせてません。ただ...」

「どうされました?」

「舞川の状態が気になりますね。おそらく前半終盤のプレーで膝に負担がかかったはずです。」


修さんの推測通り、舞川さんは前半で交代を告げられた。

シリウスもカルドナを交わした場面で膝に負担がかった様子で、前半終盤は少しアジリティが落ちていた。

「くそっ!」

舞川さんは悔しそうに膝を叩いたが、勝ち上がる上で舞川さんの存在は必要不可欠。無理をするべきではないのかもしれない。

皆がそう思った中で交代ではいるはずの光宗が舞川さんの継続出場を直訴した。

「監督!舞川さんはまだ行けるはずや!」

「光宗!」

「お願いです!」

怒鳴りつけようとする竜崎さんに目もくれず、監督に頭を下げる光宗。

傍で見ていた秋山コーチが諦めたようにマッテオリに耳打ちし、監督は舞川さんの交代をとりさげた。

「わかった。ただし次痛んだら交代だ、それから光宗、お前の出番は今日はなしだ。」

監督の采配に反旗を翻した光宗にペナルティーが与えられた。

ロッカーアウトする前、舞川さんは光宗に「必ず決める」と言い残して行き、俺は光宗の肩を叩いた。

自分の身を犠牲にしてまで直訴した光宗、怪我持ちの舞川さんの為にと、チームは団結力を高め、後半のピッチへと向かう。



W杯の余韻が忘れられません、ヨーロッパの新シーズンが待ち遠しいですね...。

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