世界大会編「ラインブレイク」
インターナショナル杯グループB最終節。
第2節と同じくフィレンツェで行われているこの試合。
対戦相手のスイスは開催国であるイタリアの隣国という事もあり、観衆は圧倒的にスイスサポーターが占拠していた。
前半戦は0-0で折り返し、勝負は後半戦に委ねられる事になっていた。
「長老、準備しとけ。」
ロッカールームでは秋山コーチの指示の元、大ベテランの甲斐さんはスパイクを磨いていた。
これが彼のルーティーンらしい。
選手達がロッカーアウトすると、俺は先崎さんと賀茂さんと共にベンチに腰掛けた。
ベンチから眺めるインターナショナル杯は新鮮だ。
ピッチ内にいる時は感じた無我夢中で気が付かなかったが、スタンドは様々な人種で溢れている、おかしなコスプレをしている人であったり、やはりこれはサッカーの祭典なのだと再認識させられる。
後半が始まると、攻めあぐねる日本に対してスイスはロングボールを多用する、上背の高くない南川の元に巨漢センタフォワード、フェルトを位置させ、制空権を握る。
「南川の奴、イライラしてなかったら良いけどなぁ。」
心配そうに見つめる先崎の言う通り、皆川さんはカードを貰いやすい傾向にある。
すると、この会話が聞こえているはずがないのに南川さんはこちらに向けて親指を立てた。
賀茂さんは「心配ないみたいだよ。さ、俺たちもアップしよう!」と告げてウォーミングアップゾーンへと足を向けた。
残り20分に差し掛かり、スイスは攻勢を強める。
引き分け以上で突破の俺たち日本だが、マッテオーリの出したサインは「攻めろ」だった。
疲れの見える橋本さんに代えてベテラン甲斐さんを投入。
実況席の修さんもこの選手交代には賛同した。
「重心が後ろにかかるとパワープレーでやられる可能性があるのでこの交代はいいと思いますよ!
いぶし銀の動きを見せる垣屋さんが中盤でスイスからボールを奪うと甲斐さんにボールを預ける。
前を向いた甲斐さんは縦にめがけて鋭いグラウンダーのパス供給する。
楔のボールに対してスイスセンターバックのジュリアスは激しく当たりに行く。
「裏抜けがないなら怖くないぜ。」
「誰が抜けへん言うた?よーいドンや!」
激しいチェックをいなすように光宗はボールをスルーし、ボールはジュリアスの股を通過し、第一関門を突破する。
「無駄だ。...なに!なんてボディバランスだ!」
老獪なポジショニングを見せるビッテンフェルトがカバーリングに入るがこれよりも早く光宗がつま先でボールに触り、抜け出す。
脅威のクイックネスで光宗はキーパーと1対1を迎えるがこれも交わし、ゴールを陥れる。
光宗はベンチに向かって走り出し、俺たちは手荒い祝福でこれを迎えた。
スタンドのイタリアチームもこのゴールには衝撃を受けたようだ。
勇士さんとチームメイトのジョゼは苦笑いした。
「あんなバケモノがいたなんてな。勇士のやつ、黙ってるなんて卑怯だぜ。」
イタリア人らしい小洒落た髭を擦るジョゼはレジスタと言われるプレーメーカーだ。
中盤でコンティと共に攻守のタクトを振るう。
隣では目を輝かせるイタリアの太陽とコンティが興奮していた。
「中々1回戦が楽しみになってきたぜ。なぁ!コンティ!いでっ!」
「お前年下だろ!まぁ楽しみなのは間違いない。」
俺たちの勝利を確信したのか、イタリアの3人組はかいじょうをあとにした。
試合は1-0で俺たち日本が勝利、終盤のは先崎さんなど、出場機会がなかった選手も登場し、これでキーパー以外全員が出場した。
他会場ではドイツが圧勝し、俺たちとドイツは当該成績で並ぶため、得失点でドイツが1位、俺たちは2位でグループを突破する事になった。
しかし、次なる相手は開催国イタリア。
完全アウェーの過酷な状況の中、次に駒を進めることができるのか、最大の試練が訪れる。
いやー!
日本代表には感動させられますよね!
なんとかグループ突破を期待したいです!!




