プロ編「新たな生活」
新登場人物紹介
史恵・・・寮母、選手たちから「フミさん」呼ばれ慕われる。得意料理はカレーライス。
佐武克秀・・・ヴィルモッツの監督を今季から務める、現役時代はシンボル的選手。
安城勇士・・・ヴィルモッツのキャプテン。20歳にしてチームのキャプテンを務める、世代別代表選手。圧倒的な空中戦の強さを誇る。
3月最初の土曜日、日本サッカーのプロリーグが開幕する。
今やサッカーは日本のスポーツ界においてプロ野球と並ぶビックエンターテインメントだ。
2部とは言え、有明ヴィルモッツは古豪の人気チーム。
新シーズンの幕開けには多くのサッカー好きが詰めかけた。
俺はメンバー入り叶わずスタンド観戦する事になった。
憧れたプロの舞台はそう容易なものではなかった。
2月下旬、俺は光希の手続きもあり、特別に高校卒業後のチーム合流の許しをもらっていた。
俺はチームのクラブハウスに隣接する選手寮にお世話になる事に。
「懸上丈瑠です。
今日からよろしくお願いします!」
「ええ、あなたが懸上くんね、よろしくね。」
寮母の史恵さんだ。
権田川さんの話では選手達から慕われていて「フミさん」と呼ばれているらしい。
俺は自分の部屋に入る前に各部屋の先輩の挨拶回りをした。
ここには未婚の選手たちや、まだトップで出場機会の薄い選手たちが多い。
また別館にはユースチーム所属の選手もいる。
「おー、懸上ちゃんやん! 久しぶり! 頭大丈夫やったか!?」
聞き覚えのある関西弁が俺の頭に響いた。
「光宗君か、丈瑠でいいよ。
これからはチームメイトとしてよろしくな。」
鳳条の光宗だ。
俺と同じくヴィルモッツに入団した。
隣部屋に顔見知りがいるのは少し心強い。
翌日早速練習に合流する事になったが、シーズン開幕一週間前に控えたチームはピリつきも見られる。
「監督。
よろしくお願いします!」
「お前が丈瑠か、寛が猛プッシュした選手だな、映像は確認している。
期待してるよ、早くチームにフイットしてくれ。」
監督の佐武 克秀さん。
現役時代はヴィルモッツ一筋、出場試合は500を昇る。
ミスター・ヴィルモッツと呼ばれた男で、今季からトップチームの指揮を執る。
他にもヘッドコーチのフランス人、ニクソンさんなどコーチ陣にも挨拶を済ませた。
始めての練習はレベルの高さに戸惑い、俺は何も出来なかった。
戸惑いを感じる俺に、キャプテンの安城 勇士さんが声をかけてくれた。
安城さんはセンターバックを主戦場にし、20歳の三年目にしてキャプテンを務める期待のホープだ。
世代別代表の大黒柱でもある。
「新人、合流初日何もしてやれなくてすまんな。
だがチームはお前に合わせてられる時間も余裕もない。
今年は昇格狙ってんだ、お前の力が必要になる時が来る、だから腐るなよ。」
「いえ、もちろんです。
早く皆さんについていけるようになります。」
しかし、とにかく練習についていくのがやっとで紅白戦にすらメンバー入りできない日々が続いた。
当たり前にパススピード、ボディコンタクトその全てのレベルが高く、今までに体験したことの無い不甲斐なさを感じる。
俺は少し美由の声が聞きたくなった。
笑いながら話す彼女に背中を叩かれるように俺は励まされる
「なーに、もう怖気付いたの? そんなことで負けちゃダメ。
いつでもこうやって電話して来ていいから頑張りなさいよ。
おじさんとおばさん達に顔向けできないわよ。」
美由の言う通りだ、弱気なってはいけないと自分を鼓舞して翌日の練習に向かった。
こうしてスタンド席で迎える事になった開幕戦。
有明ヴィルモッツは2部で迎える二年目のシーズン。
かつての輝きを取り戻すためにも絶対昇格を掲げる1年だ。
対戦相手は同じく昇格を目指す京都サイモンズ。
2部で最も魅力的なサッカーを展開するチーム。
いきなりの注目カードで迎えた開幕戦の火蓋が切って落とされる。
スタメンには勇士さんはもちろん、サプライズとして光宗が開幕スタメンを勝ち取った。
しかし、試合は意外な形で動く事になるのであった。
今回はONE OK ROCKの「The Beginning」を聴きながら作りました。
プロ編もよろしくお願いします。