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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
77/115

海外編「WINNER」

憧れていた景色がある。

俺はサッカー人生、いや、人生の中で1番を取ったことがない。

小さな頃のかけっこだって、作文コンクールだって、上位に入ることはあってもいつも1番にはなれなかった。

高校サッカーでは樫原率いる鳳条に敗れ、プロに入ってからもリーグ戦の1部昇格をかけた試合のピッチに俺は立てなかった。

「優勝」それがどんな感覚か分からなかった。

あともう少しだ、あと数分でそれが叶おうとしている。


先制ゴールをあげた俺たちモナコSFCはさらなる勢いを持って試合を運ぶ。

前半の内にバソングのアシストからミレウスとケネディがそれぞれゴールを重ねる。

さらに後半、あの男が惜別のゴールを奪う。

俺は相手陣内でボールを保持すると、間接視野からシャルドネの斜めの動きを確認する。

 元々シャルドネは超有望株だった。

 ドリブルのキレは言うまでもない。

 しかし、オフ・ザ・ボールの動きに難があったのだが、今シーズン運動量と共に大きな改善が見られた。

 偶然ではない、彼が練習後いつも自主トレやビデオチェックを重ねた賜物だ。



「タケル、練習付き合ってよ!!」

「あのなぁ、シャルドネ。

 オーバーワークは禁物だぞ。」

 俺は毎日シャルドネとオフ・ザ・ボールのトレーニングを行ってた。

 尻尾取りだ。

 シャルドネのシャツに入ったビブスを引き抜けば俺の勝ち、俺を交わして向こう側のラインに突破したらシャルドネの勝ち。

 これを毎日欠かさずしていた。

「俺、移籍するかもしれない、このチームに何も残せてないんだ。

 だから、やらないと。

 タケルも来シーズンは分からないんだろ? この世界は1年1年が勝負だ、だからやんないと!」

 シャルドネの言葉には覚悟が漲っていた。

「しゃあねぇな。

 ほら、やるぞ!」


 ちなみにあの後バソングに俺たちはひどく叱りつけられたのも今となってはいい思い出だ。

 俺のパスに抜け出したシャルドネがゴールを陥れる。

「タケル! やったね!」

「ああ、シャルドネ。

 忘れないからな、お前との日々。

 お疲れ様。」

 ピッチサイドにはシャルドネの背番号が点灯しており、ブロンドヘアーのレジェンドな待ち構えていた。

 俺たちは固い握手を交わした、シャルドネは深く深くピッチに例をしてベンチに戻った。

 頬には大粒の涙が伝っていた。

「若造、カッコつけすぎだぞ。

 必ずチャンスを作る、最後はお前が決めろよ。」

 ルイスは俺の頭を鷲掴みにする。


 後半アディショナルタイム、言葉通りルイスは絶妙なタッチでディフェンスのファールを受け、PKを獲得。

 ボールを俺に手渡す。

 バソングも俺の背中を叩いた。

「今年の主役はお前だ、行ってこい!」

 胸に手を当てて深呼吸、目を閉じる。

「丈留、迷うな。

 俺たちがついてる。」

「そうよ。

 母さんも父さんも、あなたを信じてるわ。」

 両親の声が聞こえた気がする、俺は迷わずど真ん中にボールを蹴りこんだ。

「よっしゃぁぁぁあ!」

 俺は空に向けて叫んだ。

 力一杯、これだけで喉が枯れてしまうくらいに。

「馬鹿、心臓に悪いよ。

 ナイスゴール、タケル。」

 駆け寄る、バソングと拳を突き合わせる。

 バソングは俺にとって最高のパートナーであり、このチームの真のキャピテンヌだ。


 スタンドでは腹を抱えて大声で笑う極東の記者に周囲の視線が集まる。

「ハハハ、豪快にど真ん中だなんて! らしくねぇな! 丈留の奴。

 いや、あいつらしいか!」

「五藤さん、らしくないのはあなたもですよ…」

「安倍! 今日は一杯飲むぞ!!」

「はぁ…とことん付き合いますとも。」

 次の日、日本のサッカーメディアに五藤さんの寄稿したコラムは大好評を博した。


 そして、ついにその時が訪れる。

 レフェリーは時計に目をやり、笛を咥える。

 3回音がこだました後、ピッチに選手と監督が雪崩込む。

 俺は立てひざをついた。

 見た事の無い景色に全身が震える。

 抱き合う各々、シャルドネはベンチに突っ伏す。

「タケル、立てる?」

 親友のケネディに引き起こされ、改めてその景色を見渡す。

 観客は所々で乱入しているが、それを咎める人は今日はいない。

 ジャンディはいつものように両手の掌を顔の横で水平にさせておどける。

 待ちにまった、優勝。

 円陣になって俺が聴きたかった歌を皆が歌う。

 チャンピオーネ。

 今日は俺たちがフランスリーグチャンピオンになった日だ。

もちろん、ストーリーはまだまだ続きますよ!!

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