フル代表編「空陸両用」
前半も終盤に差し掛かり、大歓声がオーストラリアを後押しする。
しかしながら、俺たち日本のサポーターも数こそ少なかれ懸命にニッポンコールを送る。
そんなサポーター同士の魂のこもったエールに応えるようにピッチ上の選手も戦い続ける。
ここまでの展開、オーストラリアはパワープレーとポゼッションを織り混ぜた攻撃でじわりじわりと俺たちをリング際まで追い込んでくる。
特にこの日初先発のヤンコは標的にされる事が多く、オーストラリアはFWバッカスは多彩なプレーでヤンコを翻弄する。
しかし頼れるキャプテン竜崎さんと守護神徳重さんのフォローもあり、何とか失点を免れ、耐えるといった所だ。
前半35分、オーストラリアは絶好の位置でフリーキックを得る。
左利きのギジッチのスワーブのかかったボールはバッカスの上空へ。
「まずい!」
竜崎さんが一瞬マークを外され、バッカスの上空へボールが到達する。
「ここでやんなきゃ! 俺が出る意味が無いでしょっ!」
「ヤンコ!」
ヤンコが頭一つ抜け出しボールを大きくクリアする。
徳重さんがヤンコの頭を荒く撫でて労うと、ヤンコの顔付きが変わった。
「皆さん、もう大丈夫です。
あとは任せてください。」
この言葉通り、ヤンコのプレーはここから安定。
それどころか鋭いインターセプトから攻撃の起点にもなり、その姿はドイツの某レジェンドの皇帝と重ねられる程の存在感を発揮する。
そして試合はと言うと、結局前半は0-0で折り返す事になった。
スタンドの安倍さんは思わず唸り声をあげ、五藤さんも頷く。
「ヤンコやるじゃないですか!!」
「ああ、奴の最大の長所は適応力だ。
短い時間で環境に適応してしまう。
まだムラっ気が否めないし、奴自身も気付いてないはずだが。」
「ではどうして、ヤンコはバッカスに対応できたんですか?」
「ああ、恐らく懸上と加茂のフォローだろう。
バッカスのサポートへのパスコースをさり気なく消している。
トラップか反転、あるいはシュートの3つに絞らせる事でヤンコの迷いを和らげた。」
実際の場面をモニターを通じて説明する五藤さん。
ある知り合いから聞いた話では、彼は指導者をする事も可能なほど、その目は肥えているらしい。
「なるほど、それにしても後半のヤンコも楽しみですね。」
「ああ。」
後半を迎えるにあたって、サイドが変わる、前半風下だった俺たちは風上に立つ。
スパイクの靴紐を結び直して俺はピッチへ向かう。
いよいよ後半、最後の戦いだ。
俺は大きく深呼吸をした。
後半が開始するや否や、日本の最終ラインから大きな声がする。
「行きましょう!! 皆さん!」
声の主はヤンコ、最年少の彼に引っ張られるようにベテラン選手も声を張り上げる。
長らく最終ラインの世代交代が叫ばれていた日本だが、いよいよその兆しが見えてきたかもしれない。
今日はベンチの勇士さんもまだ23歳でいずれこの2人が日本に鉄壁を築くだろう。
オーストラリアは後半に入り、プレスのギアを上げる。
ボールを奪ったヤンコの元にか激しく寄せるが、ヤンコは落ち着いて縦の鋭いパスを樫原に供給する。
すると、前半静かだった樫原が牙を向く。
ワンタッチでわざとボールを浮かせて、ディフェンスが食いついたところで、アウトサイドを使い相手の頭上を越すボールコントロールを見せる。
樫原が中盤のマーカーを剥がし、ドリブル突破。
敵陣深い位置まで侵入すると、相手の右サイドバック前のスペースにボールを送る。
一瞬パスミスに見えたボール、相手サイドバックが両足を地面につけた瞬間、相手の死角から現れた米田さんがワンタッチで股下を抜く。
そして間髪入れずに右足でゴールマウス目掛けチップキック。
このボールが相手キーパーを嘲笑うかのようにネットを揺らす。
前節に続いてまたしてもカウンター炸裂。
ゴールまでに関わったプレーヤーは3人。
まさにしてやったりの展開だ。
米田さんはベンチに向けて無邪気なピースサインを送って見せた。
このゴールを俺たちは必死で守りきる、後半残り15分で俺はお役御免。
勇士さんへとバトンタッチして守備固めに入る。
指揮官のマッテオーリはイタリア人。
守備に関してはやはり一流。
万全の体制でゴールに鍵をかける。
そしてついにその時が訪れる。
先日の国際親善試合、皆さんにはどう映りましたか?




