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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
73/115

フル代表編「秘密兵器の再登場」

 オーストラリア・シドニーの上空を鮮やかな星たちが彩る。

 そんな景色と裏腹に今日行われるのは決戦。

 グループ首位の俺たち日本と2位のオーストラリアとの一戦。

 日本は引き分け以上、オーストラリアは勝ち点3で文句なしにグループ突破が決まる。

 また、3位のイランが引き分け以下に終わると、両チーム突破だがイランの対戦相手はグループ最下位なので望み薄だろう。

 つまり、オーストラリアは死にものぐるいで勝点3を目指してくると予想される。


「マッテオーリをインターナショナル杯に連れてくぞ! おし!」

「おし!」

 ロッカールーム、選手スタッフ全員で円陣を取る。

 いつも通り竜崎さんの野太い声が響き渡る。

 先日代表キャップ150試合を達成した日本のキャプテンは今日も頼もしい。

 年齢的にも今大会で代表を退く意向だと、以前俺にこっそり教えてくれた。


「丈留せんぱぁい、ヤバいです震えが止まんないです。」

「ハハハ、大丈夫だ。

 お前は俺よりよっぽど強心臓だろ?」

「やめてくださいよぉ。」

 なよなよしい声を上げるのは、この日代表初キャップを飾るヤンコ岡崎。

 ヤンコは世代別世界大会を戦い、大会後彼はイングランド2部に渡り、メキメキと頭角を現している。

 オーストラリアの高さ対策として高身長のヤンコが先発に抜擢された。


 この日の先発は全開から変更が1点、右ふくらはぎ痛で代表を途中離脱した勇士さんに変わってヤンコがスタートに。

「丈留、今日もよろしくな!」

「はい!加茂さん!」

 今日も中盤でコンビを組むのは加茂さん。

 いぶし銀のプレイを見せる加茂さんは安定感抜群だ。

 今日、5歳を迎える娘さんのためにも負けられないと意気込んでいる。


 入場と国歌斉唱を終え、いよいよ試合が始まる。

 オーストラリアは試合開始直後からポゼッションを開始する。

 近年のオーストラリアはポゼッションサッカーへの変遷を図っている。

 パワープレーを前面に押し出したサッカーは世界では限界に達してきており、ここにポゼッションを混ぜ合わす事を目標に予選を戦ってきた。

 しかしながらこの崖っぷちの一戦には日本が苦手とするパワープレーで挑んでくると考えられていた。

 云わばここでも駆け引きが行われているので、試合中でもオーストラリアは戦術を変更してくるだろう。

 対する俺たちはまずは守備ブロックを形成、全体的にリトリートで対応する。

 するとオーストラリアはセンタフォワードのバッカスに鋭いボールを付ける。

「くそっ! こいつ動き出しが早い。」

「ヤンコ! 食いつくな!」

 俺の指示のタイミングも遅れ、激しく身体をぶつけに行ったヤンコにバッカスはスっと体を入れ替え絶好のチャンスを迎える。


「慌てるな、ヤンコ。

 俺がいるから安心しろ。」

「竜さん!! ありがとうございます。」

 竜崎さんが絶妙なカバーリングでボールを外に蹴りだし、事なきを得る。

 すぐにヤンコに声をかけて、ポジションを修正する。

「ったく、でもボールを奪いに行く姿勢はオーケーだ。

 ただ今のシーンは気をつけよう。」

「はい!」

 とは言え、百戦錬磨のバッカスはなかなかの強者。

 イングランド1部で2桁ゴールをあげている実績に裏打ちされたプレーはヤンコを翻弄する。

 いとも簡単にマークを外してキーパーとの1対1を迎えるが、守護神の徳重さんがスーパーセーブでゴールを割らせない。

「ヤンコ! 悪くない! 最後まで体を寄せてくれたからコースが限定できた!」

 俺たち日本は懸命な守備陣の奮闘で試合を押し込まれながらもスコアレスで試合を進める。


「ヤンコにはさすがに荷が重かったんじゃないですか?」

「やれ、安倍。

 お前どうしていつもそう短絡的なんだ。」

 記者席ではいつもの五藤さんと安倍さんコンビが戦況を見つめる。

 安倍さんは来季からヤンコを密着取材する事になっているらしい。

「まぁ、見てろよ。

 マッテオーリはそんなに馬鹿じゃない。」

 試合は前半終盤に差し掛かっていた。

ワールドカップまで残り僅かですね!!

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