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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
72/115

フル代表編「箒星」

 開始から間もない時間での先制点はスタジアムを興奮の渦へと引き込む。

 渾身のドライブボレーはクロスバーを叩きながらもラインを割り、しかもゴールが俺、アシストしたのは樫原という2本とすれば願ってもない試合の入りだ。

 サッカーではスーパーなゴールの事をスペイン語で()()()()と言い、近年では日本でもこの言葉がマニアの域を越えて使われるようになった。

 我ながら、シュート前の動き出し、樫原のボール、そしてインパクト、どれをとっても会心の出来だったこともあり、まさにゴラッソだった。

 ヴィルモッツ時代からの「レッツゴータケル」のチャントを胸に、自陣へと帰陣する。


 試合がリスタートし、イランがポゼッションに入るが素早いプレスで相手の自由を限定する。

 ボールを奪うとまずターゲットにするのは最前線の舞川さん。

 舞川さんは相手ディフェンラインを引っ張る動き、裏のスペースへ走り出したり、楔のボールを受けたりと精力的なオフ・ザ・ボールのポジショニングを見せる。

「柊さん、舞川選手今日は積極的に動いてますね。」

「彼は日本にいる時はボックスストライカーだったんですけどね。

 海外に行ってプレーの幅を広げました。」


 前半も終了に近づく中で、イランが右サイドから攻め込もうとするが、米田さんがスライディングでボールを奪い、素早く舞川さん目掛けて早いボールを供給する。

「今日は俺もやるよー。

 頼むよ、舞川君。」

「了解っと! 後はよろしく! 若造!」

「ありがとうございます。」

 舞川さんは頭でボールをフリック、樫原が絶妙なワンタッチ目でディフェンス裏に抜け出しキーパーと1対1を迎える。

 樫原は冷静にキーパーの股下を抜き追加点を挙げる。

 この日の俺たちのテーマだった超速攻。

 ゴールまでに関わった人数は3人、ボールを奪ってわずか15秒足らずだった。


 その後も俺たちはイランを圧倒。

 後半に入ってからは加茂さんがアンカーに入り、俺と樫原、加茂さんのトライアングルでボールを保持する。

 常に三角形をキープする形で後半は前半と一転して猿まわし状態を取る。

 相手が疲弊してきた所でフレッシュなアタッカー、南川さんと、浪速のストライカー光宗が俺と樫原と代わって投入。

「タケル、カタギー! お疲れさんやで! よっしゃ1発決めてくんで!」

「良くやったぞお前ら! 俺も負けねぇからな!」

 この言葉通り南川さんは得意のダイアゴナルな動きでディフェンスを掻き乱し、光宗はイランが前がかりになった所を突いてゴール。

 結局3-0で勝利し、最終戦のオーストラリア戦に向けて大きな勝ち点3を獲得した。


 試合後、テレビインタビューを終え、俺は修さんの下を訪れた。

「おう、お疲れ! 丈留。」

「お疲れ様です、修さん! テレビでいつも見てますよ!」

「嘘つけぇい、フランスに日本のバラエティが映るもんか」

「ハハハハッ。」

 すっかり、スーツ姿がお馴染みになった修さん。

 現役時代から甘いマスクで人気だったが、引退してからも専らテレビ番組にも引っ張りだこだ。

 和気あいあいとしたムードから一転、修さんは眉間にしわを寄せて次戦を展望する。

「まぁ、次はおそらく最も厳しい1戦だな。

 オーストラリアとの相性は最悪だろう?」

「まぁそうですね。

 ただマッテオーリも策はありそうですよ、まぁ明後日のプレスリリース見てください。」

 選手たちはマッテオーリから事前に秘策を聞かされている、次戦までに招集メンバーの入れ替えがある。

 もちろん機密事項だ。

「期待してるぞ、お前らは日本中の期待を背負ってる。

 プレッシャーをも味方につけろよ!」

「はいっ!」

 そう告げて去っていった修さんの後ろ姿はまだまだ現役ができそうなほど引き締まっていた。

 4日間あき、舞台はオーストラリア、シドニーに移る。

 スターティングイレブンには驚きの記名があった。

「DF48 ヤンコ 岡崎」

ヤンコ岡崎、久々の出番です。笑

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