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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
71/115

フル代表編「蒼い光」

 インターナショナル杯アジア予選、俺たち日本代表はイランをホームに迎えていた。

 試合会場はナショナルスタジアム、日本サッカーの聖地だ。

 収容人数は7万人、大一番にもちろんチケットは完売だ。

 お馴染みの応援歌が選手達の心に火を灯す。

 試合の模様は全国テレビ中継、解説を務めるのは昨年で現役を引退した元日本代表FW柊木 修さんだ。

「解説の柊木さん、注目のプレーヤーは誰ですか!?」

「はい、今日スタメンに抜擢された懸上選手ですね。

 彼とは元チームメイトだったんですけど、大事な試合で必ず大きな仕事をやってのけるメンタリティがあるんで是非注目してください!」

 修さんからは試合前の取材で激励を貰った。この日は古巣バルカンズの面々も応援に駆けつけているらしい。


 選手入場と国歌斉唱を終え、主将同士のコイントスを待つ。

 運命の一戦に高鳴る鼓動を抑えきれず、ジャンプする。

 樫原がこちらを伺い笑みを浮かべる。

 気持ちは同じ様だ。

 キックオフのホイッスルが吹かれ、まず舞川さんはフリックする。

「焦る必要は無い。

 全員1回ボールを触ればいい。」

 監督のマッテオーリのミーティング通り、マイボールは全ての選手を経由し、俺の下に届く。

 俺はトップ下に入った樫原にボールを預ける。

「気遣いどうも。」

 樫原はドリブルでボールを運び、ディフェンスを2人剥がした後、相手バイタルエリアへと侵入。

「樫原! こっちだ!」

 左サイドに開いた米田さんがボールを呼び込む。

ボールを受ける米田さんはワンタッチ目で巧みに相手の懐に入り込み、相手ディフェンダーはたまらずファール。

「いやー! 相手ディフェンスもたまらずって所ですね、柊木さん!」

「米田選手今日はキレッキレですね、見てください。

 その証拠に今日の彼は笑顔です。」

 放送席も序盤の攻撃に思わず、唸る。

 米田さんのドリブルは仲間にすると頼もしいが、相手からすると、恐ろしい子の上ない。

 笑顔で突っかけてくるドリブルは狂気すら感じさせる。

 普段のキャラクターからは想像もできない。


 左サイドのエンドラインとペナルティエリアのちょうど中間部分でのフリーキック。

 キッカーを務めるのは樫原。

「丈留、ちょっといいかな?」

 耳打ちをされた後、俺はポジションにつく。

 ホイッスルを聞き、樫原が助走に入る。

 ポジション争いの駆け引きの中、全体の重心が攻撃の進行方向へ向かう。

「完璧だ、丈留。」

 俺は密集したペナルティエリアから少し離れた所にポジションを取り、樫原から寸分のズレもないボールが浮き球で舞い込む。

 俺は集中力を研ぎ澄ませる。

 右足のアウトサイドに少しボールを乗せ、擦らせるようにボールをインパクトする。

 それでいて状態を被せながらふかさない事を意識して、丁寧かつ大胆に。

 ボールは密集地帯から斜めにドライブしキーパーの手を掠める。

 クロスバーの乾いた音が鳴り、ほぼ垂直にボールはバウンドする。

 ゴールラインを割ったか微妙な分、一瞬選手の動きが遅れる。

 イランの選手は慌ててボールを外にかき出し、日本イレブンはゴールをアピールする。

 主審のチャン氏は耳元のヘッドセットを確認する。

 ホイッスルを鳴らし、センターサークル右手で指す。


 俺は訳も分からず立ち尽くす。

 駆け寄った樫原が肩に手をかけ、「やったな。」と告げる。

 どうやらボールはラインを割っていたらしい。

 最新のテクノロジーで主審の下にゴールインの通知が届いた様だ。

「うらー!! なんて奴らだお前ら!!」

 激しくボールを呼び込んでいた舞川さんは俺たち2人に飛びかかり手荒い祝福を浴びせる。

 ほとんどの選手がセレブレーションに参加する中、竜崎さんだけはマッテオーリの下に移動し、冷静に指示を仰ぐ。


「ゴォォォォォオル!! 決めたのはなんと懸上丈留!! やりましたね! 柊木さん!」

「アシストした樫原選手、ゴールした懸上選手、完全に一皮むけましたね! この大一番であれをやる度胸が素晴らしいです!」

 放送席が現地の熱をお茶の間に届ける。

 テレビの前で観戦していた美由も立ち上がってガッツポーズする。

 それを見ていた来未も笑顔になる。

「やったぁ!!」

「パパァ!」

「そうだよ来未、パパすごいでしょ!!」


 このゴールをきっかけに俺たち日本代表はさらに波に乗る!

チャンピオンズリーグ、イタリア勢2チームがベスト8進出という事で、天国のアストーリにも届いてくれてたらいいですね。

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