高校編「葛藤」
新登場人物紹介
権田川 寛・・・謎の男とは彼の事。有明ヴィルモッツの強化部兼スカウト担当。丈瑠をスカウト。
真っ白な天井、カーテンで囲まれた空間、気が付けば俺は病床の上だった。
「お兄ちゃん! 気が付いた!?」
「ん、光希? どうしてここに...決勝は!?」
光希が急いでナースコールのボタンを押す。
俺は思わず起き上がるが制止される。
「だめだって頭打ってるんだから。
覚えてない?」
「いや、ん...飛び込んだところまでは。」
俺たち山の麓高校は敗れた。
ラストプレーでボールはポストに直撃、俺も頭から突っ込み脳震盪を起こしたようだ。
結局試合はそこで終了。
俺たちの冒険は終わった。
「光希、ごめんな。
母さんと親父とも約束したのに。」
声がかすれて上手くはっきり喋れない、喉も渇いているみたいだ。
「何言ってんのよ! ほら、明日には検査終わったら退院できるらしいから早く寝なよ!
私帰るからね、おやすみ。」
俺は何も無い天井を見つめつぶやいた。
「親父、母さんごめんな。」
月曜日、退院して火曜日に俺は学校に復帰した。
学年中の生徒たちが温かい言葉をくれた。
そして放課後には自然に足が部室に向いていた。
「あ、センパイ! 皆さんさっき帰られましたよ。」
後輩が部室を整理している、この部室ともお別れかと思うと寂しい。
部活が終わるとよくみんなでだべった、部室にエロ本を持ち込んだリキは美由にバレてこっぴどく叱られていたな。
そして、何故か今日はみんなと話をしていない。
避けれているような気がした。
もやもやした俺に見たことの無い謎の男が話しかけてきた。
180を越えるであろう身長に鍛えられた身体、この人はなにかスポーツをやっていたのだろうか。
「懸上丈留君、プロになる気はないかい?」
「え!?」
驚く俺に差し出された名刺にはこう書かれていた。
有明ヴィルモッツ 強化部 権田川 寛
「ヴィルモッツ、プロ!?」
「実は選手権予選君の事を追い掛けさせてもらった、俺は正式に君にオファーを送りたい。」
突然の訪問に俺は舞い上がったが、こう言った。
「死んだ親父のラーメン屋継ぐんでサッカーは引退です!」
俺の言葉に頷き、しっかりと話を聞いてくれた上で権田川さんという男性は言葉を紡いだ。
「待ってくれ、もちろん君の人生を左右する事だ。
すぐに決めなくていい。
一ヶ月以内に返事をくれ。」
そういって権田川さんは帰って行った。
少し考え込んでいると携帯の通知が届く、裕樹からだ。
「みんなで俺んち着てる、早く集合。」
俺は先程の事で頭がいっぱいだったので気がつくとすぐに裕樹の家に着いていた。
裕樹の部屋のドアを開けるとパンっと小さな破裂音がした。
カラフルな紙が部屋を浮遊した。
「誕生日おめでとう!!丈留!!」
「うおっ!ありがとう、みんな!」
ここ最近の喧騒から自分が誕生日である事を忘れていた。
みんなでケーキを食べたあと、俺たちは3年間を振り返った。
あの先輩が怖かったとか、あのゴールがすごかったとか思い出を語り合った。
「みんなほんとごめんな、最後俺が決めてたら。」
「ホントだよ。
これで終わりになっていいのか? お前のサッカー人生。」
「え?」
「誕生日プレゼントよ。」
美由が鞄からプレゼントを取り出す、スパイクだった。
「なんで?俺サッカーは……」
裕樹が俺の右肩を叩く。
「続けろよ、どんな形になっても。
親父さんもおばさんもきっとそれを望んでるよ。」
俺は感謝の気持ちを伝えたけどサッカーを続けるかどうかはその場で明言しなかった。
家に帰ると光希が立っていた。
「お兄ちゃん!誕生日おめでとう!」
「ありがとう。
ん、なんだ?」
嬉しそうな顔で光希が俺をじっと見つめてくる。
「家に電話あったよ。
本当におめでとう。」
「え? 何のことだ?」
「とぼけないでよ! プロでしょ!?
ほんと自慢のお兄ちゃんだよ。
パパもママも喜んでるよ!」
飛び跳ねながらはしゃぐ光希だが、一呼吸置いて俺は口を開いた。
「ありがとう、でも俺はサッカーはもうやらないよ。
1からラーメンの修行を積んでウチをもう1度開く。」
喜んでいた顔が一転して強ばる。
「何それ? そんなの絶対誰も喜ばない!」
「おい! 光希! どこ行くんだよ!」
ドアが乱暴に開け閉めされた。
光希の作ってくれたケーキが淋しげにテーブルのうえに並び、「誕生日 プロ入り おめでとう」と、チョコプレートには刻まれていた。
俺は仏壇の前に正座してこう語りかけた。
「母さん、親父。
俺は一体どうしたらいいんだよ、光希もあの年だし1人でほっぽり出してプロになんてなれないよ。」
結局光希は帰ってきたが俺と口を聞いてくれないまま、回答期限の日の前日になってしまった。
物語を作っている時は音楽を聴きながらするのが楽しいです。
例えば決勝戦なんかはUNISON SQUARE GARDENの「リニアブルーを聴きながら」を聴いて作っていました。