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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
68/115

海外編「立ちはだかる壁」

 テレビではパリの夜空を中継ヘリが映し出す。

 衛星を介して遥か先の日本でもこの試合は生中継されている。

 日が昇る前、月曜日の早朝に当たる中でも海外サッカーファンにとっては見逃せない一戦。

 試合は俺のゴールでモナコが先制に成功するが、ホームのパリも前半ラストプレーで追いつき、1-1で折り返す事になった。

 モナコロッカールームの雰囲気は非常に明るく、皆やる気に満ちていた。

「よし! 前半悪くなかったぞ。

 それどころか百点を与えてもいいくらいだ。

 お前達は俺の戦術を完璧に遂行した。」

 監督のジャンディは普段あまり俺たちにお世辞を送るような事がなく、この言葉が彼の手応えを示している事を皆が確信した。

 ジャルディムにとって初タイトルがかかる大事な一戦、しかしながらいつも通り彼は冷静だった。

「タケル、キャプテン、ちょっといいか?」

 後半のピッチに向かう途中、GKのウーゴが中盤センターで組む俺とバソングを呼び止め、耳打ちをした。


 後半のスタジアムには爆竹が鳴らされ、少しだけ煙が視界を遮る、と言ってもプレーに支障きたす程ではなく、パリの選手を鼓舞するためのサポーターのパフォーマンスだ。

 日本では体感することのない異質な雰囲気だが、シーズンも後半に差し掛かり、多少なりとも楽しめる事が出来るようになっていた。

 レフェリーのホイッスルが鳴り、俺たちキックオフで後半が幕を開ける。

 ボールをポゼッションするのは俺たちモナコSFC。

 前半に比べて一人一人の距離感を意識し、ワンタッチプレーでボールを捌く。


「前半に比べてテンポがよくなったな。

 前半のようなバタつきもなくなったし、さすがジャンディ。

 修正してきたか。」

 モナコベンチから数メートル離れたパリベンチから戦況を見つめるパリの監督サルガード。

 名伯楽と呼ばれ、そのカリスマ性でスター軍団を束ねる。

 現役時代からジャンディとはライバル関係でありながら、フランス代表では黄金コンビと呼ばれた。

 彼の特徴は戦術家のジャンディとは打って変わって大きく動かない事だ。

 人心掌握に長けており、この可変式フォーメーションの戦術も時間帯によって実施するかは選手に一任しているそうだ。

 そんなサルガードの薫陶を受けるパリの選手達も決して受け身になった訳ではなく、虎視眈々とチャンスを伺っているようだった。

 そんなパリは少しずつペースを握り返し、ロドスがボールをキープする。

「その距離で大丈夫か? タケル。」

 俺とバソングのプレッシャーが甘くなった所で、ロドスとコンセスがミドルシュートを連発する。


「前半はムカついてたんだよ!」

 幾多のシュートも、俺たちの守護神ウーゴがゴールに鍵をかける。

 悔しそうに顔をしかめるロドスにコンセスが近寄る。

「おい、ロドス。

 どうやら俺たち"打たされてる"みたいだぜ。」

「そうみたいだな。

 完全にコースを誘導されてる。」

 コンセスとロドスに対して俺たちはあえて激しいプレスにいかず、ペナルティ外からシュートを意図的に打たせるようにしていた。


「よっしゃ! 乗ってきた。

 もう充分だ、ありがとう!」

 ウーゴの得意なプレーはショットストップ。

 長い手足を活かし、鋭いシュートも弾き出してしまう。

 特に、試合の中で一つ二つ、セーブを重ねる毎にそのプレーは洗練されていくため、今日の試合でも彼を乗せる事が大事だった。

 ウーゴの提案は博打だったが、バソングと俺は迷わず承諾した。

 練習後の居残り練習でいつも彼にシュートを阻まれているからだ。

 完全に乗ったウーゴは鬼神の如く、セーブを連発。

 強引なドリブルで抜け出したコンセスとの1対1も神速の飛び出しで防いでしまう。

「ゴンさん! ビエラ! ポジション右に修正! 難しいボールは簡単にクリアしてもいいぞ!」

 前半良いようにやられていたゴンザレスとビエラもパリのスピードに慣れ、サッカーでは「神の声」と呼ばれるGKのコーチングを受け、安定感をもたらし始める。

 云わばゾーン状態に入った、ウーゴの存在は頼もしい事この上ない。


 クロスボールをビエラが思い切りよく蹴りだし、サイドラインを割る。

 転がったボールはちょうど交代の準備を完了させたブロンドヘアーの男の足下に。

「勝ち越しの準備は整ったみたいだな。

 頼むぜ、レジェンド。」

 後半残り時間は15分、パリ決戦も終盤に突入する。


オリンピック、感動の連続ですね。

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