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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
67/115

海外編「会心の一撃」

 まだまだ冷え込むパリの夜、首位攻防戦が行われていた。

 序盤はホームチームのパリが主導権を握り、攻勢に出るが、俺たちモナコも慌てずに守備ブロックを作りゴールに鍵をかける。

 それを上回ろうとスタープレイヤー、コンセスのアクロバティックなシュートがネットを揺らすものの、直前のファールで俺たちは事なきを得た。


「行くぞ!」

 ボールを持ったバソングが声高々に俺たちを鼓舞すると一気にポジションを組み替えるパリ陣営。

中盤を逆三角形にし、前線からのプレスではめ込もうして来る。

「くそっ。」

 パスコースを消され、ボールを持ちすぎたバソングは必死にボールをキープするが、やむ無く前に蹴り出す。

 そしてアバウトなボールは長身FWのケネディが体勢を崩されながらも胸で落とす。

「まずい! 脇が空いてる!」

 ロドスが急いで前線から戻ろうとするも、パリのプレッシング時の可変フォーメーションには穴が あった。

 中盤を逆三角形にすると、中盤底にふたつのスペース、"脇"ができる。

 バソングは適当にボールを蹴り出した訳ではなく、サイドのシャルドネとセンターハーフの俺が脇に飛び出す時間を作る為に長くボールを保持し、滞空性の長いロングボールを選択した。

 ケネディが右の脇に落としたボールはハーフバウンドで俺の元に届く。

 思考と体が瞬時に一致した。

 散水で濡れたピッチを切るようにポールと地面に対して斜めに足首を入れる。

 いい感触で足に乗ったボールは地面に擦れ上がるようにホップし、ゴールマウスへと直線で向かう。

 体全体が痺れる、他人のプレーに鳥肌が立った事は珍しくないが、自分のプレーに驚いたのはサッカー人生で初めてかもしれない。

 ネットに突き刺さったボールを確認してから俺は胸元のエンブレムを強く握り、アウェースタンドに誇示する。

 一番近くにいたケネディが「お前ヤバいぜ。」と肩を叩いた直後にお調子者のシャルドネが飛び掛って来てからは誰が誰か分からない、とにかく揉みくしゃにされた。

 いつもは冷静なジャンディ監督も大喜びしていたようで、その様子はSNSで話題になったようだ。


 対するパリはただ、静かに闘志を滾らせていた。

 センターバックのキャプテン、ジウベルトは細かいポジション修正を各選手に行っていたようで、リスタート後にパリはすぐに修正してきた。

 失点が無かったかのように動揺なく試合を運ぶ。

 先制される前よりも落ち着いてボールを回し、無理な仕掛けをして来なくなり、感覚的にまるで俺たちがリードされているかのような状態に陥る。

 ただ、焦れてはいけないと俺たちも理解していたので集中の糸はしっかりと繋いでいた。

 時計の針は45分を指す、あとワンプレーで前半が終了だろうか。

 マンマークにつくロドスが前線に飛び出そうとする。

「させるか! えっ!?」

「ちっ、汚れ仕事を俺がやるなんてな。」

 コンセスが俺の前に立ちはだかり、スクリーンのような形になる。

 そしてフリーになったロドスにグラウンダーのボールが入り、このボールを利き足ではない右足でシュートを放つ。

 タイミングを外されたキーパーのウーゴは一歩も動けずゴールイン。

 同時にレフェリーの笛がなり前半終了。


 やられてしまった。

 前半ラストワンプレーの失点はダメージが大きいはずだ。

 しかし、モナコイレブンは皆笑顔だった。

「まさか、ヤツが汚れ役を買ってくるとはな。」

 バソングは俺の肩を持ちおどけて見せる。

「きー!! ムカつくぜ、悪いみんな完全にタイミング外された。

 後半は点取らせないから許せ!」

 ウーゴは悔しそうにゴールにかけていたタオルを噛んだが、どこか楽しそうだ。

 そうだ、まだ前半終了。

 それにまだ同点だ。

 俺は拳を握りしめロッカールームに戻った。

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