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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
65/115

海外編(特別編)「密着取材②」

 懸上丈留というサッカープレイヤーが海を渡り、海外日本人選手として歩みを始めたのは昨年8月。

 私も、合わせてフランスに一年間滞在する事になった。

 フリーの身もあって様々な仕事の依頼が舞い込むが、私に迷いは無かった。

何しろ私自身、懸上のプレーが好きなのである。

 しかし、日本代表での彼の立ち位置は少々厳しいもので、代表監督の人選には疑問を持っている。


「ふぅ。」

 手元のコーヒーカップを口に注ぎ、一呼吸をする。

「五藤さん疲れてませんか?あんまり無理しちゃダメですよ。」

「大丈夫だ。

 プロサッカー選手に心配されるようならジャーナリスト失格だな。」

 懸上は基本的に物腰が柔らかい。

 若くして両親を亡くし、苦労した経験もあり精神的にもタフだ。

「安倍さんは五藤さんの後輩ですよね?」

「はい、何から何までお世話になってるんですよ。」

 同行している安倍は緊張も解けてきたようで、私も少しホッとした。


「じゃあ今度は代表について聞いてもいいか?」

「ええ、もちろん。」

Q.「まず、年代別世界大会での準優勝、大会の感想は?」

A.「うーん...難しいですね。

  こんなこと言うと変ですけど、あんまり実感がないんですよ。

  勢いのまま進んだといいか。」

Q.「国際大会は初めてだったよな?」

A.「はい。

  それだけに何もかもが初めてで。

  よく言うじゃないですか? 新しい事を始めると時間が経つのが早いって。

  まさにそんな感じです。」

Q.「高校時代からの顔見知りだという樫原とのプレーはどうだった?

  今後二人は日本サッカーを背負って立つと思うんだが。」

A.「彼は天才です。

  俺には彼のようなサッカーセンスはないですから本当に一緒にやっていて楽しいです。」

 年代別世界大会で、一躍脚光を浴びる形になった懸上。

 この大会での活躍は海外移籍の足がかりになった。


 そして今私が一番聞きたいのはフル代表についてだ。

Q.「次にフル代表デビュー戦どうだった?」

A.「悔しかったです。

  自分に足らないものがこんなにも多いのかって。

  手応え感じてましたけど、後でチェックしたら酷かったです。監督の判断は正しかった。」

 隣の安倍が励まそうと口が動きかけていたが、取材を止めるわけには行かない。

 懸上にバレないように安倍の足を踏み、制止した。

Q.「足らないもの、とは?」

A.「技術的要素はもちろん、何よりビビってましたね。

  ミスしないようにミスしないようにって。」

 悔しさを噛み締めるように語る懸上に私は現在の心境を伺った。

Q.「そこから数ヶ月、やれる自信はついたか?」

A.「ええ、もちろん。

  選ばれたら絶対やってやりますよ。」


 私は目を丸くした。

 今までの彼ならどこか遠慮がち、謙遜を思わせる回答をしたはず。

 フランスでのプレーが彼を選手として、男として大きくしている事がはっきり分かった。

 余談であるが、懸上丈留の古巣であるヴィルモッツは今シーズン大逆転での初優勝を飾り、ベストイレブンには彼のライバルである天津川が選出されている。

 この件について懸上は興味旺盛で、私に逆質問を繰り出してきた。

「五藤さん、天津川どうですか?」

「ああ、国内なら私より安倍の方が詳しいよ。」

 国内リーグを二年取材していた安倍が取って代わり、説明する。

「びっくりしましたよ。

 彼の今のプレーは懸上さんそっくりです。」

「そうなんですか? ヤツはどっちかと言うとファンタジスタのイメージが強いんです。」

 彼も1人のサッカーファン。この後二人は一時間近く語り合った。


 全ての取材を終え、長時間居座ったレストラン礼を告げ、店の外へ出る。

「今日はシーズン中にも関わらず、本当にありがとう。」

「いや、気にしないでくださいよ。

 嫁が五藤さんの記事大好きなんですよ、いい記事期待してます!」

今日の取材で確信した。

 懸上丈留という男はまだまだ走り続けるだろう。

 チャンピオーネを聴くまでは。


20xx年 2月4日 専門誌『サッカーダイアリー』

タイトル回収!笑

物語はまだまだ続きますよ!

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