海外編(特別編)「密着取材②」
懸上丈留というサッカープレイヤーが海を渡り、海外日本人選手として歩みを始めたのは昨年8月。
私も、合わせてフランスに一年間滞在する事になった。
フリーの身もあって様々な仕事の依頼が舞い込むが、私に迷いは無かった。
何しろ私自身、懸上のプレーが好きなのである。
しかし、日本代表での彼の立ち位置は少々厳しいもので、代表監督の人選には疑問を持っている。
「ふぅ。」
手元のコーヒーカップを口に注ぎ、一呼吸をする。
「五藤さん疲れてませんか?あんまり無理しちゃダメですよ。」
「大丈夫だ。
プロサッカー選手に心配されるようならジャーナリスト失格だな。」
懸上は基本的に物腰が柔らかい。
若くして両親を亡くし、苦労した経験もあり精神的にもタフだ。
「安倍さんは五藤さんの後輩ですよね?」
「はい、何から何までお世話になってるんですよ。」
同行している安倍は緊張も解けてきたようで、私も少しホッとした。
「じゃあ今度は代表について聞いてもいいか?」
「ええ、もちろん。」
Q.「まず、年代別世界大会での準優勝、大会の感想は?」
A.「うーん...難しいですね。
こんなこと言うと変ですけど、あんまり実感がないんですよ。
勢いのまま進んだといいか。」
Q.「国際大会は初めてだったよな?」
A.「はい。
それだけに何もかもが初めてで。
よく言うじゃないですか? 新しい事を始めると時間が経つのが早いって。
まさにそんな感じです。」
Q.「高校時代からの顔見知りだという樫原とのプレーはどうだった?
今後二人は日本サッカーを背負って立つと思うんだが。」
A.「彼は天才です。
俺には彼のようなサッカーセンスはないですから本当に一緒にやっていて楽しいです。」
年代別世界大会で、一躍脚光を浴びる形になった懸上。
この大会での活躍は海外移籍の足がかりになった。
そして今私が一番聞きたいのはフル代表についてだ。
Q.「次にフル代表デビュー戦どうだった?」
A.「悔しかったです。
自分に足らないものがこんなにも多いのかって。
手応え感じてましたけど、後でチェックしたら酷かったです。監督の判断は正しかった。」
隣の安倍が励まそうと口が動きかけていたが、取材を止めるわけには行かない。
懸上にバレないように安倍の足を踏み、制止した。
Q.「足らないもの、とは?」
A.「技術的要素はもちろん、何よりビビってましたね。
ミスしないようにミスしないようにって。」
悔しさを噛み締めるように語る懸上に私は現在の心境を伺った。
Q.「そこから数ヶ月、やれる自信はついたか?」
A.「ええ、もちろん。
選ばれたら絶対やってやりますよ。」
私は目を丸くした。
今までの彼ならどこか遠慮がち、謙遜を思わせる回答をしたはず。
フランスでのプレーが彼を選手として、男として大きくしている事がはっきり分かった。
余談であるが、懸上丈留の古巣であるヴィルモッツは今シーズン大逆転での初優勝を飾り、ベストイレブンには彼のライバルである天津川が選出されている。
この件について懸上は興味旺盛で、私に逆質問を繰り出してきた。
「五藤さん、天津川どうですか?」
「ああ、国内なら私より安倍の方が詳しいよ。」
国内リーグを二年取材していた安倍が取って代わり、説明する。
「びっくりしましたよ。
彼の今のプレーは懸上さんそっくりです。」
「そうなんですか? ヤツはどっちかと言うとファンタジスタのイメージが強いんです。」
彼も1人のサッカーファン。この後二人は一時間近く語り合った。
全ての取材を終え、長時間居座ったレストラン礼を告げ、店の外へ出る。
「今日はシーズン中にも関わらず、本当にありがとう。」
「いや、気にしないでくださいよ。
嫁が五藤さんの記事大好きなんですよ、いい記事期待してます!」
今日の取材で確信した。
懸上丈留という男はまだまだ走り続けるだろう。
チャンピオーネを聴くまでは。
20xx年 2月4日 専門誌『サッカーダイアリー』
タイトル回収!笑
物語はまだまだ続きますよ!




