海外編「偽」
フランスリーグ第18節、リーグ戦折り返しの一戦だ。
俺たちモナコSFCがホームに迎えるのはソールベージュ1912。
リーグ戦7位に付け、ヨーロッパコンペティション出場権を虎視眈々と狙うチームだ。
特筆すべきは相手チームのキャプテンが日本代表サイドバック唐澤さんである事だ。
俺はロッカーアウトし、選手入場前の整列時に挨拶を交わす。
「よろしくお願いします!」
日本代表時にはにこやかな表情で皆のお兄さん的な役割の唐澤さんだが、いつもと様子が違う。
「ああ、よろしく。
相手が丈留くんだろうと手加減はしないからね。」
蛇のような視線に対して本能で俺の身体が恐怖を感じた。
今日は久しぶりのデーゲーム。
13:00キックオフの一戦でスタンドには子どもの姿も確認できる。
ゲームがキックオフするとボールを保持するのはアウェーチームのソールベージュ。
唐澤さんがボールを持つと右ウイングのポジションに入ったサッチャーにボールを捌く。
サッチャーが素早く仕掛けクロスボールを放り込むがここはセンターバックのゴンザレスが大きくクリアボールする。
「よしっ! 行くぞ!」
浮き球のボールを拾い、自陣からカウンターを仕掛けようとした時、俺はボールを奪われる。
ボールを奪ったのは通常そこにいるはずのない唐澤さんだった。
唐澤さんはそのままロングシュートを放つが僅かにゴールを逸れる。
直後にバソングが俺の元へ駆け寄り耳打ちする。
「タケル、噂には聞いてたがやっぱり相当厄介だなこのチーム。」
「ああ、難しいゲームになりそうだ。」
スタンドには今日も五藤さんと阿部さんが戦況を見つめる。
面を食らった表情で阿部さんが問いかける。
「あれってもしかして?」
固唾を呑んで五藤さんがメモを見比べる。
「そうだ。
偽サイドバックだ。」
「確か攻撃時のサイドバックのポジショニングがセンターハーフの位置まで押し上がる戦術ですよね? サイドバックはオーバーラップで攻撃に参加せずウイングに一任、自らはカウンターのリスク管理に入るという。」
右ウイングのサッチャーは南アフリカ代表で爆発的なスプリントが特徴のプレーヤーであり、1対1に絶対の自信を持つ。
「ああ。
サイドバックの戦術理解度、ウイングの単独での仕掛けが要求される。
この戦術を成功させることが出来るサイドバックは世界でも希だ。
現にソールベージュは唐澤のいる右サイドからじゃないとこの戦術は使っていない。」
五藤さんの言う通り、唐澤さんはフランスリーグでもNo.1の称号を得ているサイドバックでとりわけ評価されているのが戦術理解度の部分である。
阿部さんは頭を抱えて、「どうすればいいんですかね」と呟いた。
それを見て五藤さんはニヤリと笑った。
「まぁ見てろ、後半には試合が動く。」
試 合はソールベージュの波状攻撃が繰り出され、俺たちは防戦一報を強いられる。
「ラインを下げるな! ヤツらの思うつぼだ!」
バソングの懸命の指示もなかなか浸透せず、クリアボールを拾われ続け、徐々にラインが下がり始める。
しかし勝てば首位浮上のチャンス。
負ける訳には行かないモナコイレブンは身体を張り、ペナルティエリアでどうにかボールを掻き出し耐え続ける。
必死の守備も実り、なんとか前半をスコアレスで折り返す事に成功する。
ロッカールームでシャンディ監督が俺たちの目を見つめ、問いかける。
「後半、行けるな?」
「うっす!」
若きサイドアタッカー、シャルドネには闘志が漲っていた。
今年の高校サッカー決勝レベル高くて終始釘付けでした。。




