海外編「違い」
残された試合時間は僅か、両チーム身体と頭の限界も近づき始めた頃、若手センターバックのビエラが体を張ったシュートブロックでピンチを脱出、ボールは俺の前に転がる。
「タケル!行け!」
遠くでジャンディの指示が聞こえる、スタンドの大歓声が俺の身体を包み込む。
俺は自陣からドリブルを開始する。
この時間での大胆なプレーに相手は驚きを隠せない。
ボールを押し出したドリブルから左右に相手の重心を観察し、骨盤をパニック状態に陥らせる、ヨーロッパコンペティション予備予選で実村さんが見せた緻密なタッチのドリブルとは正反対だ。
足裏を使うような難しいフェイントは使わない、基本に忠実かつ大胆に。
これは俺のスタミナと基礎技術を最大限に活かしたロングドリブルだ。
ゴールまで25m、最後の力を振り絞ったシャルドネと後半から入ったルイスが並走する。
こうなってくると、シュートを煽るスタンドの歓声と味方のパスを要求する動きも囮に使うことが出来る、俺は視線や姿勢を利用して次々に相手を欺き、GKとの1対1を迎える。
「修さん、ゴール前は視野を広くでしたよね。」
日本時代のチームメイトの修さんの言葉を思い出した。
スクエア気味にボールを転がす。
「よくやった。」
走り込んでいたルイスが丁寧にボールを流し込む。
ゴールと同時に終了のホイッスル。
倒れ込むニースのプレイヤー達、歓喜のモナコイレブン。
殊勲のゴールを挙げたルイスの元に次々と押し寄せる若手選手たち。
俺は視線を自陣に移すと、どうやらビエラも立ち上がっており、大事には至らなかったようで胸を 撫で下ろした。
ピッチサイドでは監督も少し疲れた表情を浮かべて、両手のひらを上に向けた後「Good luck」と口を動かした。
「それがお前の出した答えか? タケル。」
バソングが駆け寄り、俺にタオルを手渡す。
「ああ、今日はたまたま選択したのはドリブルだったけど、俺の原点は全力プレーだ。
賢くプレーしようと丸く収まり過ぎてたよ。
スタミナがある限り、出せる全てを出し尽くす、それが俺だ、必殺技なんてないよ。」
「そうか、それより見ろよ。」
バソングが指差したバッグスタンドには壮観な後継が広がっていた。
サポーターは勝利の大合唱、1ヶ月ぶりの勝利に喜びを爆発させた。
恋人と肩を寄せ合うサポーター、ワインを片手に叫ぶ大男。
やはり勝利は格別だ。
「さぁ! みんなで挨拶に行くぞ!」
バソングの指示のも、一列に並び手を繋いだ俺たちは一斉に走り出しサポーターの掛け声に合わせて宙を舞った。」
激闘のダービーマッチを制したモナコSFCはここからV字復活を遂げる。
リーグ戦では破竹の7連勝、一時はボトム10だった順位も4位まで持ち直し、敗退が決まっているとはいえ、ヨーロッパコンペティションでも初勝利を記録した。
私生活では美由と生後5ヶ月の来未がフランスにやって来た。
シーズン前半戦も佳境に入り、ヨーロッパの水にも慣れてきたこれからのパフォーマンスで真価が問われる。
2017年も残り僅か、来年もよろしくお願いします!!




