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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
57/115

フル代表編ー海外編「膠着」

 イランとのアウェーゲームは前半を0-0で折り返してハーフタイムを迎えた。

 少なからず手応えを感じていた俺だが、監督の下した判断は無情にも交代だった。

 監督であるイタリア人のマッテオーリがミーティングで発した四文字にロッカールームはざわついた。

「どうしてですか? 監督、こいつのプレーは俺たちの助けになっていました。」

「指示に口を挟むな、事情は後から本人に説明するからお前達は試合に集中しろ。

 代わってはいるのは先崎だ。」

 キャプテンの竜崎さんは異を唱えたものの、老将の眉間のシワはピクリともしなかった。

 ピリついた雰囲気の中、結局ロッカーアウトの時間になり、竜崎さんは気持ちを切り替え、皆を鼓舞してピッチに向かっていった。

 唖然とする俺に賀茂さんは「気にするな」と声を掛けて行った。


 試合はイランが相変わらず攻勢に出るものの日本が耐える展開。

 しかしながら後半39分に中盤に交代で入った南川さんの値千金のボレーで勝利。

 大きな勝ち点3を掴みとり、スタートダッシュに成功した。

 明るげな表情を浮かべる選手が多いが俺は監督から受けた課題を胸に、前節アピールに失敗した樫原も思いつめた様子だった。


「タケル、なぜ変えられたかわかるか?」

 試合後にマッテオーリに呼び出された俺は首を横に振った。

「賀茂とプレーしてどうだった? やりやすかっただろう。

 実際お前自身のパフォーマンスは悪くなかった。」

「じゃぁ」と食らいつくところ制止され、マッテオーリは大きなジェスチャーを交えて続ける。

「"悪くなかった"んだ。

 それ以上でも以下でもない、可もなく不可もないんだ。

 俺はお前のプレースタイルを魂のこもったモノと認識していたが、違ったようだ。

 海外に行って恵まれすぎたんだよ。」

 俺はいつもは心に響く何かを感じた。確かに守りの姿勢でイラン戦に臨んでいたことは否めなかった。

 プレッシャーがそうさせたのかは分からないが、プロとしてこの言い訳はできない。

「それからこれからお前は壁にぶつかる、必ずだ。

 乗り越えるまでお前を代表には呼ばないつもりだ。」

 畳み掛けるように降りかかる言葉に俺はただただ頷く事しかできなかった。

 最後にマッテオーリは「それでも期待しているぞ」と、俺の胸に拳を突き、引き上げて行った。



 代表戦から数ヶ月経ち、ヨーロッパコンペティションを戦うモナコSFCは絶不調のさなかにいた。

 4節を終え、まさかの全敗。

 早くもグループ敗退を喫してしまった。

 さらに不調はリーグ戦にも影響し、実に2ヶ月勝利から遠ざかってしまった。

 監督解任もチラつきはじめ、テコ入れが行われるようになり、俺は先発を外れる事が増え始めていた。

 マッテオーリの言っていた「壁」はすぐに現れた。

 それは俺の特筆すべきプレーがない事だ。

 俺のよう基本に忠実ななプレーだけでは世界のトップクラスでは目立てない。

 いわゆる「必殺」と呼ばれるようなプレーが俺にはない。

 必殺と言っても「橋本砲」のような派手なプレーだけを指すのではない、賀茂さんの身体を入れるプレーも代名詞であるし、実村さんの両足に吸い付くボールタッチもそれである。

 俺の強いて言うならのスタミナ面が希少なものでは無い事は明白で、プレーの幅を広げる必要をひしひしと感じる数ヶ月だった。


 そんな中で迎えたのは、ダービーマッチ。

 対戦相手はニース・スポルト。

 地中海に面した都市をホームタウンに持つチーム同士の対戦から「地中海ダービー」と呼ばれ、百年の歴史を持つビックマッチだ。

 この試合で監督のジャンディの進退がかかり、敗戦なら解任だと地元紙は報じた。

 ジャンディは普段はミーティングでもクールだが、今日は違った。

「今日ベンチのメンバーはすまない、負けたら俺を恨め。

 先発メンバー、足がちぎれても走れ。

 戦術云々の話は今日は無しだ。

 走れ、闘え、そして勝て。」

 モナコイレブンは驚いた、就任してジャンディが戦術を語らないのは初めてらしい。

 そしてホワイトボードには俺の名前が記されていた。


 密かに磨きあげたプレーを見せるべき一戦、そしてチームにとって運命の一戦が始まろうとしていた。


お待たせしました!

今年もあと僅か、年内少なくとも二回は更新予定です!!

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