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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
56/115

フル代表編「異質」

 サポーターの応援の質や熱量、空気感は地域や国ごとにそれぞれ違ってくる。

 肩を組みながら左右する「横揺れ型」や試合中ひたすら飛び跳ねている「縦跳ね型」であったり、ゴール時には地元研究チームによるとマグニチュードが発生する地域もある程だ。

 そんな中でも中東のチームは極めて異質であり、女性がスタジアムに入れない所もあれば、執拗なレーザーポインター攻撃を繰り返してくることもしばしば散見される。

 また、開催日によっては宗教上の理由から喜びの禁止があり、なんとも言えない雰囲気でゲームが行われる事もある。

 俺は年代別代表ではアジア予選を経験しておらず、つまりは中東でのゲーム自体が初めてで、尚且つ 相手が中東最強のイランという事でスタメン抜擢を懐疑的に見る人間も少なくなかった。

「心配するな、100回失敗しても俺が100回尻拭いするから。

 いや、100回は多いな。その半分で。」

「全面的に信頼してます、賀茂さん。」

 今日初めてタッグを組む賀茂さんは俺の肩を揉みほぐしながら冗談めいた事を言うが、このあたりも気が利く人なんだろう。


 時刻はというと、現地時間3:30。

 キックオフの時間、日本では時計の針は8時丁度を指している。

 日中ほどの暑さは無いものの、まだまだ暑さが残る不可解な時間。

 日本のテレビ放映の時間なども関係しているようだ。

 直接は届かなくてもテレビの前で見守るサポーター達に勝利を届ける事は至上命題だが、このゲームは勝ち点1を持って帰る事も展開によっては要求される。

 日本代表のスタメンは前節からメンバー変更は1点。

 樫原に代わり俺が中盤センターで賀茂さんコンビを組み、実村さんがトップ下に、橋本さんが左サイドにスライドした。

 対するイランは4-3-3のシステム。

 ディフェンスラインの統率力はアジア1とも言われ、鉄壁を誇る。

 チーム全体の組織が非常にソリッドで、中東のイヤらしさも兼ね備え、非常に厄介な相手だ。

 センタートップのダリは斬れ味鋭いドリブルを特徴とし、ビッククラブから注目されている。

 試合を裁くレフェリーのホイッスルで試合はスタートする。


 俺たちのプランはまずしっかりとした組織を築く事。

 相手の特徴をなぞらえてバランスを崩すのは危険だという判断だ。

 対するイランも慎重な試合の入り、序盤は睨み合いで推移する。

 コンビを組む賀茂さんは絶妙なポジション取りで俺との距離感を常に気遣ってくれる分、俺も落ち着いてゲームに入ることが出来た。

 しかし、徐々にボールを保持しはじめたのはイラン。

  観客の大歓声の中、球際での激しさを見せてセカンドボールも拾ってくる。

 苦しい状況下、ここで頼もしいのは竜崎さんの存在だ。

 ボールをシンプルに跳ね返すだけではなく、場合によっては流れを切るためにボールを大きく蹴り出す。

 また、相手のFWのプレッシャを利用してファールを受ける事でイランの攻撃の波を途切れさせる。

 老獪なプレーは暑さで思考力が低下しがちなコンディション下で絶大な安心感をもたらす。

 結局、互いに大きなチャンスもなく、前半を折り返す事になった。


手応えを感じていた俺だったが、ハーフタイムにマッテオーリ監督が告げた言葉は意外なものだった。

「タケル、交代だ。」

川崎フロンターレ優勝。

いやぁ感動しましたね、Jリーグは特定のチームのサポーターではないのですが思わず泣きそうになりました。

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