フル代表編「長い道のり」
まとわりつく様な暑さから少し抜け出しそうな9月第1週、インターナショナルマッチウイークを迎えていた。
W杯を二年後に控え、世界各国でいよいよ予選本番モードという雰囲気になって来た。
チームメイトのバソングやクロウ、ジェルマンを擁するフランスは地元の大歓声を受けグループ最大のライバルの呼ばれるクロアチアに5-2と圧勝し、最高のスタートを切った。
難しい船出となったのはサッカー発祥のイングランド、そして守備の国イタリア。
彼らは引いた相手を崩せずドロー発進。
南米ではやはりサッカー王国ブラジル、そしてロドスのゴールが飛び出したアルゼンチン、くせ者ウルグアイがそれぞれ白星スタートを切った。
そして、俺達が戦うアジアでは大波乱が起こっていた。
俺達所属するグループはBでイラン、オーストラリア、シリア、そして第1戦の対戦相手のヨルダンの計6チーム。
反対グループでは開幕戦で韓国とサウジアラビア、ウズベキスタンの突破有力国がそれぞれタイ、中国、UAEに敗れるという異常事態が発生した。
しかしながらこれはアジア全体の底上げがされており、俺達も決して油断はできない。
迎えたミッドウイーク、水曜日の1戦。
鮮やかな夜空、開幕戦ホームで戦う俺達を後押しするのは5万人のサポーター。
満員御礼の下、中東の曲者ヨルダンを迎え撃つ。
俺はベンチから戦況を見守る事になった。
遡る事三日前、代表監督のジョバンニ・マッテオーリと通訳を介してファーストコンタクトを取った。
イタリア人監督のマッテオーリは65歳の老将で数々の強豪国を歴任して来た。
シワの数が経験を物語り、短い期間で先述を落とし込む事を得意とするため、ナショナルチームを率いる上で最適の人材の言われている。
「お前がタケルか、フランスの知り合いから話は聞いてるよ。
今回お前のを使うかどうかは分からないが、これも経験だ。
肌で感じてプラスにしてくれ。」
代表チームのスターティングメンバーがスタジアムDJの大きな声と共にバックスタンド上のオーロラビジョンに映し出される。
システムは4-2-3-1とバランスのとれた布陣だ。
GKは徳重護さん26歳。
ハーバー神戸の正守護神で長い手足を生かしたロングボール処理とパントキックの制度に秀でた守護神だ。
ディフェンスラインは右に唐澤さん。
この日キャプテンマークを巻いた竜崎さん。
そして有言実行、クラブでポジションを確保した勇士さん。
左には国内王者バルカンズでキャプテンを務める右松章介の構成だ。
中盤センター、つまり俺とポジションを争う位置でスタメンに選ばれたのは実村さん、そして24歳、イタリア1部レッジョ所属の賀茂運さんだ。
水を運ぶタイプのプレーヤーだ。
そして2列目右に入るのは米田さん。
そしてトップ下の位置、背番号8が告げられるとスタジアムのボルテージは最高潮。
橋本さんが今日も定位置に入る。
少し間が空いて左サイドに選ばれたのはなんと樫原だ。
スタメン大抜擢を日本サポーターが大きく後押しする。
ワントップの位置に入るのは先日の食事会に参加していなかったがドイツ、スイス、スペインと参加国を渡り歩いた舞川傑さんが入る。
的確なポストプレーを信条としている。
「丈留、よーく見とけよ、そして準備しとけ。
畜生、俺も出たかったなぁ!」
俺の隣に座るのは南川さん。
彼も年代別からの「昇格」を果たした。
他にも先崎さん、そして光宗も選出されたがそれぞれ同ポジションの先輩と隣のベンチについた。
大歓声と大きな緊張感の下でレフェリーが口を加え、ついにゲーム幕を開けた。
5秒経つと俺は驚きの光景を目にした。
なんとキックオフで後ろに下げたボールをそのまま橋本さんが振り抜く。
ストレートで伸びるボールはクロスバーを叩きゴールラインを割る。
「橋本砲、ミサイルかよ。」
南川さんが形容したそれは大歓声のスタジアムをも飲み込む一撃だった。
そして、すぐに橋本コールが起こる。
マッテオーリは右手の親指を立て、橋本さんにウインクした。
俺は開始5秒にして、いきなりフル代表の凄みを感じたのだった。
ブラジル戦、ベルギー戦楽しみですね!!




