海外編「背中」
後半手痛い失点を喫した俺達。
残り時間逆転を目指し投入されたのはベテランストライカーのルイス。
ルイスは俺の元へ駆け寄り耳打ちをした後すぐにセンターサークルへと走っていった。
頼れるベテラン投入といえども残された時間はあまり多くない、俺は靴紐を結び直した。
キックオフするとまずは落ち着いて俺たちはボールを始めた。
雨のピッチ、試合展開に気を取られ雑なパスが増えていた俺たちだったが、やはり頼れるブロンドヘアの英雄の投入は精神面で大きく違う。
落ち着きを取り戻した俺たちはナンテーヌ陣内へと押し込む。
時計の針は41分に差し掛かる頃、シャルドネが左サイドでボールを持つとルイスがペナルティエリア外まで下がりボールを呼び込む。
「タケル!」
グラウンダーのボールがルイスに入る頃、既に俺はゴール前へと飛び出していた。
ルイスは右足アウトサイドでセンターバックとキーパーの前に軽く浮かせる。
「絶好球。」
相手チームのキーンが思わず唸ったほどのパスだった。
俺の利き足の、それもワンタッチで流し込むだけのボールだった。
右足のインサイドで面を作り、踏み込んだ時に脚がもつれる。
ナンテーヌの選手が俺の肩に手をかけていた。
「タケル! こっちだ!」
走り込んでいたのはバソング、直感だった。
このままでもPK、さらには倒した選手も退場だろう。
しかしここでプレーを切らしたくない、ゴールを奪いきりたい。
バソングもまた同じ考えだった。
つま先でぎりぎりボールを押し出したボールにバソングが滑り込み同点。
拳を突き合わせた俺たちはすぐにボールを持ってセンターサークルに向かった。
しかしナンテーヌも慌てていなかった。
キーンはすぐに「慌てるな! 最悪勝ち点1取り切るぞ!」と手を大きく叩いた。
記者席では五藤さんがタブレット上のデータ画面を見て感嘆していた。
「うん、なるほどな。
やっぱり元フランス代表エースは伊達じゃない。
よく試合を見てた。」
「どういう事ですか? 五藤さん、確かに今のパスは凄かったですけど。」
「オフ・ザ・ボールだけで凄みがあるよ。
深さをとってディフェンスラインをまず下げたよな。
これでモナコは落ち着いてボールを繋げるようになった。
常に牽制してるんだ。」
「裏への抜け出しは怖いですもんね。
ペナルティエリア内では何が起こるか分からない。」
「ああ、加えて同点シーンの引きの動き。
前半からの守備で疲弊していたナンテーヌの守備陣は完全に出遅れた。」
若手記者の安倍さんはハッとした顔してメモに書き出した。
「つまりは縦の揺さぶりですね!!」
「ああ、前半からのボールは動いていたけど横への繋ぎが多かった。
あれじゃあスライドを繰り返せば問題は無い。
もちろん徹底したナンテーヌの規律があってこそだがな。
さっき丈留君が耳打ちされてたのもこの事だろう。」
試合はアディショナルタイムに差し掛かり、さらに圧力をかけていく。
水際で防ぐナンテーヌ守備陣だが、再び巧みな引きの動きからバイタルでマークが浮いたルイスに ボールを持たせてしまう。
「まずい! 寄せろ!」
キーンの支持も虚しく、背番号20番がゴールを陥れるには難しくなかった。
先程のワンタッチパスが効力を持ち、ルイスのシュートコースが出来る。
キーパーの手前でワンバウンドしたシュートはスピードを上げサイドネットへと突き刺さった。
右手を突き上げ自陣へと歩く往年の姿に若手が飛びかかる。
我ながらモナコSFCは良いチームだ。
程なくしてタイムアップ、リーグ戦を見事に連勝で乗り切った俺たち。
2週間のインターナショナルウイークに突入して行き、いよいよヨーロッパコンペティションの幕も上がろうとしていた。
いやしかし今年はセリエが熱いですね!




