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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
53/115

海外編「背中」

 後半手痛い失点を喫した俺達。

 残り時間逆転を目指し投入されたのはベテランストライカーのルイス。

 ルイスは俺の元へ駆け寄り耳打ちをした後すぐにセンターサークルへと走っていった。

 頼れるベテラン投入といえども残された時間はあまり多くない、俺は靴紐を結び直した。


 キックオフするとまずは落ち着いて俺たちはボールを始めた。

 雨のピッチ、試合展開に気を取られ雑なパスが増えていた俺たちだったが、やはり頼れるブロンドヘアの英雄の投入は精神面で大きく違う。

 落ち着きを取り戻した俺たちはナンテーヌ陣内へと押し込む。

 時計の針は41分に差し掛かる頃、シャルドネが左サイドでボールを持つとルイスがペナルティエリア外まで下がりボールを呼び込む。

「タケル!」

 グラウンダーのボールがルイスに入る頃、既に俺はゴール前へと飛び出していた。

ルイスは右足アウトサイドでセンターバックとキーパーの前に軽く浮かせる。

「絶好球。」

 相手チームのキーンが思わず唸ったほどのパスだった。

 俺の利き足の、それもワンタッチで流し込むだけのボールだった。

 右足のインサイドで面を作り、踏み込んだ時に脚がもつれる。

 ナンテーヌの選手が俺の肩に手をかけていた。


「タケル! こっちだ!」

 走り込んでいたのはバソング、直感だった。

 このままでもPK、さらには倒した選手も退場だろう。

 しかしここでプレーを切らしたくない、ゴールを奪いきりたい。

 バソングもまた同じ考えだった。

 つま先でぎりぎりボールを押し出したボールにバソングが滑り込み同点。

 拳を突き合わせた俺たちはすぐにボールを持ってセンターサークルに向かった。

 しかしナンテーヌも慌てていなかった。

 キーンはすぐに「慌てるな! 最悪勝ち点1取り切るぞ!」と手を大きく叩いた。


 記者席では五藤さんがタブレット上のデータ画面を見て感嘆していた。

「うん、なるほどな。

 やっぱり元フランス代表エースは伊達じゃない。

 よく試合を見てた。」

「どういう事ですか? 五藤さん、確かに今のパスは凄かったですけど。」

「オフ・ザ・ボールだけで凄みがあるよ。

 深さをとってディフェンスラインをまず下げたよな。

 これでモナコは落ち着いてボールを繋げるようになった。

 常に牽制してるんだ。」

「裏への抜け出しは怖いですもんね。

 ペナルティエリア内では何が起こるか分からない。」

「ああ、加えて同点シーンの引きの動き。

 前半からの守備で疲弊していたナンテーヌの守備陣は完全に出遅れた。」

 若手記者の安倍さんはハッとした顔してメモに書き出した。

「つまりは縦の揺さぶりですね!!」

「ああ、前半からのボールは動いていたけど横への繋ぎが多かった。

 あれじゃあスライドを繰り返せば問題は無い。

 もちろん徹底したナンテーヌの規律があってこそだがな。

 さっき丈留君が耳打ちされてたのもこの事だろう。」


 試合はアディショナルタイムに差し掛かり、さらに圧力をかけていく。

 水際で防ぐナンテーヌ守備陣だが、再び巧みな引きの動きからバイタルでマークが浮いたルイスに ボールを持たせてしまう。

「まずい! 寄せろ!」

 キーンの支持も虚しく、背番号20番がゴールを陥れるには難しくなかった。

 先程のワンタッチパスが効力を持ち、ルイスのシュートコースが出来る。

 キーパーの手前でワンバウンドしたシュートはスピードを上げサイドネットへと突き刺さった。


 右手を突き上げ自陣へと歩く往年の姿に若手が飛びかかる。

 我ながらモナコSFCは良いチームだ。

 程なくしてタイムアップ、リーグ戦を見事に連勝で乗り切った俺たち。

 2週間のインターナショナルウイークに突入して行き、いよいよヨーロッパコンペティションの幕も上がろうとしていた。

いやしかし今年はセリエが熱いですね!

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