海外編「落とし穴」
前半をスコアレスで迎えた両チーム。
雨はより一層激しくなり、ピッチは劣悪化するばかりだった。
所々で水溜りが散見され、芝生がめくれ上がる部分ま出てきていようだが、これはハーフタイム中のグランドキーパーの必死の作業により修復された。
前半を不完全燃焼気味に終え、消化不良の俺たちは、後半開始の所定時間より三分ほど早めにピッチに現れた。
俺たちはボールを一人ひとりの足下に届け、ピッチコンディションを入念に確認する。
「タケル、気をつけろよ。
キーンは百戦錬磨だ、 去年俺たちはあいつらに勝ってない。
後半必ずなにか仕掛けてくるはずだ。」
バソングは靴紐を結びながら俺に警戒を促した。
勿論、ナンテーヌの不気味さは感じていた。
ピンチになっても顔色一つ変えず、冷静さを保ち続けており、どこか余裕すら感じる様子だ。
まるで俺たちは蜘蛛の巣に中にいるような感覚に陥っていた。
後半が開始しても戦況に大きな変化は無かった。
ボールを保持して攻める俺たちだが、この形はあまり得意なものとは言えなかった。
「バスを停める、置く」
「亀の子戦術」
プロビンチャと呼ばれる中小のチームが総合力で劣る相手や、格上との対戦時に良く使用する戦術だ。
様々な見解があるが、ポゼッションを思考するチームなどからは「アンチサッカー」となじられる。
ゴール前に選手を固め、自らはポゼッションを放棄し、守りに重きを置く戦術のためしばしば上記のように揶揄される。
しかしながらハマれば非常に厄介な戦術だ。
先制されると一転して崩れる可能性もあり、ある意味では綱渡りの戦術と言っても間違いではない。
相変わらず雨は降り続く。
後半25分を過ぎた頃痺れを切らしたシャルドネが左サイドから強引にドリブル突破でカットインを図る。
「駄目だ! 行くな!」
バソングが慌てて修正しようとした頃には時すでに遅し。
ピッチの水溜り部分で球足は弱まり、シャルドネの右足のステップにぶつかる。
ボールはシャルドネから僅かに離れてしまう。
全てを図っていたかのように、ナンテーヌは中央の選手達が一気にシャルドネに襲いかかり、そこから俺達のお株を奪う美しいカウンターからゴールを陥れる。
「バスを停める? 違うねぇ。
俺達のサッカーは最後に笑うサッカーだ。」
俺たち二人を指さすキーンの言う通り、ナンテーヌはただガードのポーズをとっているだけではなかった。
的確なタイミング、規律、ピッチコンディションから判断して会心の一撃を伺っていた。
まんまと落とし穴にハマってしまった俺たち。
特に失点のキッカケを作ったシャルドネは肩を落とした。
しかし、ピッチサイドに立っている一人のストライカーを見てモナコイレブンは安堵の表情を浮かべた。
0-1のビハインド、攻めあぐねている中で投入されるのはモナコの英雄。
ナンテーヌにキーンありならウチにも大ベテランのビクトル・ルイスがいる。
ブロンドカラーの長髪をかき上げ、ヘアバンドをつける姿は名アクターっぷりを醸し出す。
「さぁみんな、ここからだぜ試合は!」
とりあえずウェールズとスロバキアの予選敗退がショックです。。




