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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
51/115

海外編「古豪」

 インターナショナルマッチウイークとは国際Aマッチデーとも言われる。

 つまり、親善試合や、コンペティションの予選を含めた国際試合を行う週や日の事を示す。

 俺が初招集された日本代表はアジア予選でイランと対戦する。

 そして、代表合流前所属チーム最後のリーグ戦のスターティングイレブンに俺は選ばれた。

 

 フランスリーグ第4節。

 俺たちは『ナンテーヌFC』というチームの本拠地『ジェルソン・スタジアム』に乗り込んだ。

 ナンテーヌの英雄元フランス代表のジェルソンの名が冠されたスタジアムである。

 ナンテーヌはリーグ優勝8回を誇る名門クラブ。

 しかしながらここ10年で優勝経験はなく、「古豪」と呼ばれるようになってしまった。

 チーム編成は俺たちモナコとは正反対でベテランがスタメンの過半数を占め、センターバックを務めるキャプテンのキーンは、38歳元アメリカ代表で150キャップを積んでいる百戦錬磨の大ベテランだ。

 今シーズンは三節終えて、2勝1分けの好スタートを切っている事からも決して侮れないチームだ。


「勝って開幕四連勝決めるぞ!」

 キャプテン、バソングの威勢のいい掛け声と共に勢い良くロッカーアウトした俺たち。

 今日も俺はバソングと中盤センターでコンビを組む。

 キックオフ時間は現地時間20:30。

 空模様はあいにくの雨でピッチコンディションはスリッピーだ。

 雨の試合と言うと、技術的に難しいレベルのサッカーが強いられる。

 いつも以上にボールタッチに神経を奪われる。

 出来るだけシンプルなプレーを心掛けようというのが俺たちイレブンの共通認識だった。

 

 レフェリーの笛と同時に俺たちはまず、猛プレッシャーをかけた。

 開始15分で相手に主導権を握らせない事が監督のゲームプランだ。

 そしてボールを奪うとシンプルにケネディに向けて高いボールを供給する、ピッチが濡れているが「空」の対戦には大きな影響は及ばないため前線のポストマンを活用する。

 そして5分、ケネディが頭で落としらミレウスが飛び込み右足でハーフボレーで叩く。

「やった!……」

 ミレウスがガッツポーズをしようとした右手を慌てて引っ込める。

 ボールはポストを叩きゴールラインを割る。

「ミレウス、その右手どうしたんだ。」

「うるせぇ、次は決めるよ!」

「二人とも次だ。切り替えろ!」

 お調子者のケネディがミレウスを茶化すが、ここはさすがキャプテン。

 バソングがふたりを叱責し、すぐにポジションを修正させる。


 スタンドでは今季、俺に密着しているジャーナリストの五藤さんが新米ジャーナリストの阿部さんを連れて観戦しているらしい。

「しかしこの展開はまずいな。」

「えっ、いい展開じゃないんですか? チャンス作れてますし。」

 不安げな様子で語る五藤さんに対して安倍さんは不思議そうに質問した。

「これだけ飛ばして1点も取れないのはちときついはずだ。

 疲れもコンディションから通常よりたまりやすい。

 それにナンテーヌがどうにも不気味だ。」


 俺たちはその後積極的に攻撃を仕掛け続けるものの、ゴールを割るに至らず、4節にして初めて前半を無得点で折り返す。

 ロッカールームに引き上げる際に、キーンが俺とバソングに声をかける。

「お前たちなかなかやるじゃないか。

 バソングは知っていたが、カケガミ・タケル。

 いいもの持ってるぜ。」

 俺はありがとうと言いかけたがキーンの続け様の言葉でかき消された。

「ただな、俺は最後に笑えればそれでいい。

 お前たちのサッカーはまだ青い、後半楽しみにしてな。」

 不気味な笑みを浮かべながら引き上げて言ったキーン。

 背中には禍々しいオーラが放たれていた。


W杯予選も佳境ですね!

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