海外編「日の丸」
8月中旬、ドイツ・デュッセルドルフの日本料理店に集った海外日本人プレイヤー達。
話題は先日の年代別世界大会に始まり、所属リーグの激しさ、注目プレイヤー、そして国内リーグについて議論を交わした。
国内組の突き上げもまた、日本代表の強化には欠かせない。
そんな日本代表のキャプテンは噛み締めるように呟いた。
「そう言えば、来月から始まるな」
『ナショナルチャンピオンシップ』
サッカー選手なら誰もが憧れるタイトルの一つ。
四年に一度開かれる大会でナショナルチームタイトルではこの大会が最もメジャーである。
そして9月のナショナルマッチウイークでついにアジア予選が始まる。
橋本さんもまた、息を呑む。
「前回大会俺は何も出来なかったからな。
リベンジに燃えているぜ。
樫原と丈瑠も準備しとけよ、お前らの力が必要な時がすぐに来る。」
樫原は静かに頷き、俺は勢いよく「はい!」と返事した。
「この大会ばかりはねぇ、俺もやるよ。
もう負けるのは懲り懲りだから。」
先程までの目つきとは打って変わった鋭い眼光で米田さんが拳を握り締める。
「健介も僕も負けるのは嫌いだもんね。」
唐澤さんも全面同意で頷いた。
先輩達が口を揃えるのには前回大会の惨敗が起因する。
過去最高のメンバーと評された日本チームだったが蓋を開ければグループリーグ全敗。
直前のコンディショニングに失敗したそうだ。
そしてまずは所属チームからと、それぞれ結果を出す事を誓い合った俺たちは解散した。
翌日、チーム練習を終えた俺に二つのビッグニュースが舞い込んだ。
一つ目はクラブ関係者から通達されたのは俺に日本代表の招集レターが届いた事。
俺はすぐにグループトークで先日のメンバーに挨拶をした。
「おい、タケル! グループリーグの組み合わせ決まったぞ!」
そして、抽選会帰りでスーツ姿のバソングが夕食を共にしていた俺とケネディの元へ訪れ、二つ目のニュースを伝えた。
「これって。」
「ああそうだ。
ガンナーズ、クロウとお前の仲間のチームだ。
それからドイツ王者のミュウヘンFC。
ダークホース候補、ルーマニアのレアル・ブカレスト」
ポット分けと言い、グループリーグの抽選は昨年のリーグ実績、クラブ、リーグランキングなど総合的な観点から選別された四つのカテゴリからそれぞれ1チームずつ選ばれる。
俺たちモナコSFCはプレーオフからの出場とあって強豪との対戦は予想されていた。
しかしながらあまりの組み合わせに思わず固唾を飲んだ。考えられる上で、最悪の死の組を引いてしまったようだ。
「あー、ちなみにミュウヘンには俺の相棒がいるぜ。」
ステーキを口に運びながら呑気な口調でケネディ。
「なんだタケル、やっぱりお前はそういう顔するのか。
ちょっとくらい怯めよ。」
「ないない、タケルはドM気質だから。」
口を萎ませつまらなさそうな表情をするバソングにケネディがやや肯定しがたい言葉のチョイスで返す。
「ドMは否定するけど最高の組み合わせだな。」
俺は胸を踊らせた、海外一年目で世界トップレベルとの対戦が実現したのだから。
代表招集とグループ分け、今から楽しみで仕方が無い。
俺は興奮を抑えられずケネディ宅からランニングで帰ることにした。
9月目前、少し涼しげな夜風を感じながら。
代表戦の前に、リーグ戦を少し挟みたいと思います。




