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高校編 「意地と意地」

 ハーフタイムを迎え、俺たちの消耗は明らかだった。

 肩で息をしている選手も少なくない。

 鳳条が展開する高次元のサッカーに必死に喰らいついたのだから無理はない。

 俺は息をコクりと呑み、話し始めた。

「みんな聞いてくれ。

 俺たちは今までの3年間全力でサッカーを取り組んできたか? 

 俺含めてこの問いにイエスと答え ることができる奴はいないだろう。

 この結果はある意味仕方ないのかもしれない。」

 美由が思わず立ち上がる。

「ちょっと丈瑠どうしたのよ!」

 俺は遮るように言葉をつづけた。

「だけど、俺たちには腐れ縁かもしれないけど培ってきた時間がある。

ここのメンバーは昔からやってきた奴らが多いよな。悪い時も良い時も、一緒だった。

俺のわがままにも付き合ってくれた。

もうちょっとだけ一緒にサッカーやろうぜ。」

 裕樹が右手を差し出しハイタッチする。

「今更何言ってんだよ、当たり前だ。」

「俺達が出来ることは走ることだ!根性論かもしれねぇけどそれしかねえ!勝つぞ!」

 山の麓イレブンの、いや選手全員の気持ちのこもった掛け声がロッカールームの外までこだました。


 ハーフタイム開始頃から雨が降り始め、ピッチは若干濡れていた。

 後半は俺たちのキックオフで始まった。

 前半の俺たちの模倣をするように鳳条はハイプレスをかけてくる。

 低い位置でボールを奪われる事を嫌って鳳条センターバック貴瀬の所まで蹴り出す。

「みんなやるぞ!」

 俺の声に合わせてみんなが動いた。

「うわっ、なんだこれ?」

 貴瀬が一瞬驚いた表情を見せる。

 全選手が等間隔に並びシステム4-4-2上にいくつもの四角形を作った。

 いくつもの四角形の前にツートップがプレスをかけるそれに釣られるように全員がスライドする。

 綱で繋がれたような動きにポゼッションを始めようとする鳳条イレブンに動揺が垣間見える。

 人と人との間に受けに来る選手に対しては素早く門を閉じて起点を作らせない。

 試合が進むが俺たちのガッチリしたブロックを前に膠着した戦況になっていく。

 勝負どころと見るやいなや、後半中盤頃でさらにシステムは変形する。

裕樹が中盤まで下がってボールをカット、そのタイミングでツーボランチの俺とハラが一気に駆け上がる。

 サクが裕樹のフォローに入りロングフィード。

 貴瀬が声を荒げる。

「慌てるな!惑わされるな!ボールを見ろ!」

 トップのミツグに放たれたロングボールだった。

「スルーだ!」

 俺は叫んだ。

 盾垣が動けない。

「なっ...」

 ミツグがスルーしたことにより、キーパーの前でバウンドしたボールはスリップして盾垣の足下を通過する。

 それに気付いていた樫原だけは指示を送っていた。

「まだだ!盾垣!」

 鋭くポストに当たって跳ね返るボール。

 これに反応し、流し込んだのは俺だった。


 山の麓同点。

 後半28分。

 湧き上がる山の麓陣営。

「やったー!お兄ちゃんきめたぁー!!」

 スタンドの光希は友達と抱き合い、天津川も思わず立ち上がりガッツポーズをした。

 それに対して鳳条イレブンは円陣を組む。

 落ち着きを払う樫原。

「僕たちは鳳条だ。わかってるよね?」

 貴瀬は手を上げて皆に一礼した。

「すまん、今のは俺のミスだみんな頼んだぞ。」

 光宗は持ち前の関西弁で笑った。

「まぁカタギよぉー、俺にボール集めてくれや!」

 盾垣は全く動じない。

「後ろは任せろもうやらせない。」

 樫原が王者の自負を再認識させ、盾垣と貴瀬は素早く切り替える。そしてエースの光宗はゴールを渇望する。

 

 試合が再開する。

 再び鳳条が圧倒的に押し込む、疲れから俺たちの距離感は少しずつ開いてくる。

「なるほどね。

 前半からやらなかったのは体力面での消耗が半端ないからか。

 でも容赦はしないよ。」

 再び樫原がスルスルとボールを運びゴール前まで到達する、そして光宗がボールを呼び込む。

「カタギっよこせ!」

「やだよ。

 最後は僕が決める。」

 俺は懸命にシュートブロックに入る。

「間に合ってくれ!」

 シュルルっとネットが揺れる音。

 湧き上がるスタンド。

 しかしボールはサイドネット。

 ぎりぎりで俺の足にあたってコースが変わり何とかピンチをしのいだ。

 続けざまのコーナキック、貴瀬が競り勝つが俺たちはバーに救われた。


 レフェリーの笛がなり、全後半80分の終わりを告げる。

 そして1ー1の同点で延長戦に入る。

 山の麓ベンチは必死にストレッチをしてリカバリーを図る。

 控え選手の層が薄い俺たちはメンバーを入れ替える事ができない。

 一方鳳条は三選手一気に入れ替えてきた。


 スタンドの男と天津川が語る。

「よく粘ったとはいえ足の釣りかけた選手の多い山の麓は瀕死状態に近いな。

 どこまでもつか。」

「そうですね、樫原もまだまだ余力ありそうですし。

 ただ、鳳条は九十分で決められなかった事に苛立ちが感じられますけどね。」

「ああ、あとはどこまで懸上君が引っ張って粘れるか。」

 雨は降やむことがなく、ピッチの状態も悪く、ボールも重くなる。

 そして、いよいよ延長戦開始の笛がなる。


高校編は佳境に突入です。

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