海外編「食事会」
激闘を終えたロックスタジアム。
ホームチームは欧州の舞台への出場を逃すことになったが、一人の日本人のプレーに拍手喝采が巻き起こっていた。
それは紛れもなく「金を払う価値のあるプレー」だった。
試合後の会見で退団を明言する事になる実村さんはピッチを一周し、サポーターへ感謝の丈を伝えた。
一方で、俺たちモナコSFCはほぼプラン通りに試合を進め、ヨーロッパチャンピオンへの挑戦権を手にした。
しかし、最後の実村さんのプレーで俺とバソングが出し抜かれた事もあり、満面の笑みとはいかなかった。
「丈瑠! お疲れさま。
俺の移籍先は出場権ないんだ。つまりにお前に先越されちまった訳だ。」
「いえ、最後のプレー。
やられました、まだまだ適わないです! またよろしくお願いします!」
俺が挨拶を終え、立ち去ろうとすると、思い出したような顔をして実村さんが語りかけてくる。
「そう言えば、今度ヨーロッパでプレーする日本人で食事会するんだ。
お前も来いよ! 詳細は後で連絡するよ。」
今や、海外日本人プレーヤーは数十人にのぼる。
先輩達の話は俺も聞きたかっただけに是非にと、回答した。
数日が経ち、ヨーロッパコンペンディションの出場権を獲得した俺たちはシーズン開幕を迎え、二連勝でスタートを切る事に成功した。
そして週が開けたオフ。
ドイツのデュッセルドルフに在する日本料理屋で前述の会食が行われた。
石畳の街にひっそりと構える料理店。
極東からデュッセルドルフに移住した夫婦が営み、50年の歴史があるそうだ。
俺は失礼がないようにと樫原と共に一番乗りで店に入った。
もちろん少なからずの緊張を感じていた、大先輩との食事会だ。
「何を堅くなってるんだい、そんな変な先輩はいないから安心しなよ? それよりどうだい? フランスは。」
「ああ、思った以上に激しいよ。
まぁ開幕2節連勝で終えたけど、強豪とは当たってないからな。
樫原はどう?」
「クロウがうるさくて仕方ない。
組んでいていつかの関西弁を思い出すよ。」
「ははっ! それは賑やかそうだ。」
ガラガラと扉の開く音がする。
歴戦の猛者達が続々と入り込んでくる、俺と樫原を含めた6人のメンバーが揃った。
紹介してくれた張本人の実村さんは移籍直後ということもあり、今回は不参加だそうだ。
「はじめまして! 懸上丈瑠です。
よろしくお願いします!」
俺は大きな声で一礼した。
「お前部活じゃないんだからさ、まぁリラックスしてくれよ。
俺は竜崎享だ。
よろしくな。」
俺の挨拶に苦笑いで応えた竜崎さんは31歳のベテランで、日本のキャプテンでセンターバックを務める。
海外でプレーする日本人にとって「鬼門」と呼ばれたポジションでありながら、イングランドで5年間レギュラーを張り続けている。
常にストイックな姿勢で真のプロフェッショナルだ。
「で、俺の隣にいるのが橋本壱誠だ。」
「うっす! 噂は聞いてるぜ、よろしくな!」
豪快に俺の肩を叩いた橋本さんは27歳ドイツ1部でMVP経験を持つ日本のエースだ。
二列目を主戦場とし、両足から放たれるシュートは「橋本砲」とサッカーファンの間で語られる。
「俺は唐澤亮。
今年は対戦楽しみにしてるよ、宜しくね。」
穏やかなスマイルで俺と握手を交わした唐澤さんは27歳。
フランス一部のソールベージュ所属。
サイドバックでクラブではキャプテンを務め、正確無比なクロスを持ち味とする。
「ちわーっす、日本食恋しいっしょ。
故郷の米、持って帰りな。」
26歳新潟出身の米田健介さんは手土産にと、故郷の米を渡してくれた。
サイドハーフを主戦場とし、フワフワした喋り口調から想像出来ない鋭いドリブルでスペインリーグを戦う。
「じゃあ揃った訳だな。
シーズン中だ、酒じゃないけどとりあえず、乾杯!」
竜崎さんの乾杯の音頭をとった。
テーブルには高タンパク低カロリーの料理が並んだ、シーズン中は食事もトレーニングの一つ、アスリートとしての体づくりの基礎だ。
俺は恐る恐る、ある質問を投げかけた。
「あの、勇士さんや南川さんは呼んでないんですか?」
軽く微笑んで唐沢さんが俺の質問に答えた。
「うん、もちろん誘ったんだけどね。
勇士はまだスタメン取れてないから、南川はシーズン中の馴れ合いは避けたいって理由で今回は来れなかったんだ。
勇士はともかく、南川はらしいよね。」
「亮そんな事言われたのかよ! あの野郎、今度シメとくか。」
「こらこら壱誠、新人の前でそういう事言わない。
それにあいつが悪いヤツじゃないのはわかってるだろ?」
どうやら唐沢さんと橋本さんは同い年ということもあり、ピッチ内外でとても仲がいいらしい。
「ところで丈瑠、でいいか? この間の世界大会、凄かったじゃないか。」
「あそこで勝たなきゃ意味ないです……あ、すいません。」
俺は大先輩である竜崎さんに対して悔しさのあまり、思わず反論するような形になり、慌てて頭を下げた。
「いや、安心した。
まだまだ、上を見てるみたいだ。
それに樫原も同じ意見だろ?」
「はい、もちろん。
彼の向上心にはいつも感心されられるのです。」
竜崎さんは樫原の言葉を聞いた後、ギラギラした眼差しで俺を見つめ、大きな手で俺の頭をさすった。
「嫌だねぇ。
若いし、勢いあるしぃ。
俺の代表のスタメンも怪しいなぁ。」
頰杖をついてため息を吐きながら米田さんが口に鶏肉を運ぶ。
そしてサッカー談義は次の話題に移るのだった。
新キャラ登場です。
1度登場人物まとめを入れたいですね。




