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チャンピオーネを聴くまで  作者: 登々野つまり
海外編(フランスリーグ)&予選編
47/115

海外編「鮮烈」

 前半開始から30分が経過。

 序盤こそ、ポルティレンセの勢いに押し込まれた俺達モナコSFCだったが、徐々にイニシアチブを握り、ボールを保持する展開に変わっていった。

 情熱的なサポーターに後押しされ俺達のサッカーはテンポアップする。

 しかしポルティレンセも欧州の舞台を幾度と無く経験しており、簡単に動じることはなく、カウンターの機会を伺っていた。


 前半終了間際の43分、左サイドからシャルドネがグラウンダーのクロス、ニアサイドでミレウスがコースを変えケネディの元にボールが転がる。

「ケネディ!」

「タケル! 任せたぞ!」

 ペナルティエリア手前まで走り込んだ俺を感じていたケネディが綺麗に落とした。

 右足のインフロントにボールが乗る、当たり過ぎずいいインパクトでボールを捉える。

 放たれたボールは綺麗なスワーブで右上隅へ飛んでいく、ゴールを確信した俺はスタンドに向けて走り出す。

 ネットの揺れる音は一瞬でかき消され、スタジタムは興奮の坩堝に引き込まれる。

 俺は右胸のエンブレムを強調し、俺を獲得してくれたクラブ、温かく迎えてくれたチームメイトやサポーターに敬意を示した。

「レッツゴー!タケル!」と場内は俺のチャントが鳴り響く。

 ヴィルモッツ時代からの俺のチャントをモナコサポーターは採用してくれたのだ。

「ナイスアシストだ、ケネディ!」

「お前こそいいシュートだった、カミさんも喜んでるよ、お前の事気に入ってたからな!」

 巨大な体躯から想像もできない爽やかなスマイルのケネディとセレブレーションを行う。


 結局前半はこのまま終了し、後半も俺達のペースで試合は進んでいく。

 ポルティレンセも実村さん中心に反撃に出るものの、ここはキャプテンのバソングが老獪なポジショニングでディフェンスの防波堤として機能する。

「くそっ! 引いてくるなら打つまでだ!」

「させませんよっ!」

 実村さんの個人技からのミドルシュートを読んでいた俺は足を投げ出しブロック、ボールはサイドラインを割る。

 張り切りすぎたのか、俺は後半30分を過ぎたこのプレーで足をつってしまう。

 高校以来の経験だったが、やはり足をつるのは激痛だ。

 トレーナーに肩を貸してもらい何とかピッチを後にする。

 スタンディングオベーションの中ベンチに下がり、監督のジャンディとハグを交わす。

「俺の抜擢は正しかったようだ。

 タケル、これからもよろしく頼むぞ!」

 大怪我から選手としてのキャリアが短命になった過去のあるフランス人青年監督は青い目を輝かせ、俺への期待感を露わにした。


 試合は途中出場でルイスが健在ぶりをアピールするヘディングシュートが決まり、2-0で俺達のモナコSFCの勝利となった。

 アウェーゴールを抑えての複数得点での勝利は考えられる上で最高の滑り出しと言ってもいい。

 会心の勝利をサポーターに報告した後、俺たちは上機嫌でロッカールームへと引き上げた。

「懸上選手!」

 その途中のインタビューエリアで一人の日本人が俺を呼び止めた。

「五藤さんじゃないですか!」

 世代別代表に密着していた五藤ジャーナリストだった。

 今年から1年俺に密着し、コラムを掲載するらしい。

「いきなりすごい出来だったね! これは記事が捗るよ、ありがとう!」

「いえいえ、でもこれで終わりじゃないです。

 アウェーでの一戦はもっと厳しくなる。」

「その通りだ、ポルティレンセは昨シーズンホームで1度も負けてないな。

 でもあなたなら大丈夫だと確信しているよ!」

 その言葉通り、翌日掲載された五藤さんのコラムには俺の鮮烈なデビュー、今後への期待が綴られていた。


 一週間が経ち、俺たちはポルトガルの夜を迎えていた。

 ポルティレンセのスタジアム「ロックスタジアム」は断崖絶壁にある珍しいスタジアムだ、海沿いに面するため、浜風が強く吹くことが特徴的である。

 ウォーミングアップ中から発煙筒が焚かれ、異様な雰囲気で時が刻まれる。

 ホーム&アウェー方式はしばしば長い前後半に喩えられることが多く、いよいよその後半戦を迎えようとしていた。

 俺たちにとって欧州の舞台を踏めるかの最終試験が始まった。

遅くなり申し訳ありません!!

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