番外編「置かれた場所で」
照りつける太陽、前後半15分ハーフで行われる少年サッカー。
「団子」と呼ばれる状態がしばしばの年代でありながら技術面が一番伸びるとされるゴールデンエイジでもある。
某大学教育学部在学中3回生の棗 裕樹はボランティアコーチを務めていた。
練習を終えると必ず各コーチと子供たちが一人ひとり握手を交わすのは、裕樹がこの少年団に在籍していた頃から変わらない風習で、裕樹自身このしきたりが好きであった。
子供ながら感謝の気持ちと敬意を払う事は覚えておくに越したことはない。
全ての子どもたちと握手を終えたあと、先ほどそのルーティーンを終えたはずの少年が裕樹の下へ走ってきた。
「ねぇ、ゆうきコーチってあのかけがみ選手と友達なの?」
目を輝かせながら小学6年の健という少年は裕樹に問いかけた。
裕樹は彼の頭を優しく二度ほど撫で、「そうだよ」と返した。
少年はそれからいくつかの懸上丈瑠についての質問を繰り返し、最後に物憂げな表情で尋ねた。
「僕、かけがみ選手みたいになれるかな。
最近全然出られないし。」
裕樹は自らの、そして丈瑠の過去を回顧しながら少年に語りかけた。
「元々丈瑠はベンチだったぜ。けど1回も練習サボらなかったし、休日もいつも俺と2人でボール蹴ってたかな。健が試合に出たいなら一杯練習するんだ。」
「でも僕、全然才能無いし。」
「努力する事も才能の一つだよ。
健はちゃんと頑張れるってコーチは信じてるぞ。」
そこから数ヶ月経ち、健たちの最後の公式戦を迎えた。
昨今は8人制で行われることが多い少年サッカーであるが、この大会は珍しく11人制、コートもゴールも大人用サイズで行われる。
この試合で健はスタメンに選ばれていた、少年はがむしゃらに練習を続け、レギュラーポジションを掴んでいたのだ。
試合は相手チームが強豪という事もあり、防戦一方の展開を強いられるが、健を中心に体を張ったプレーでゴールを奪わせない。
しかし後半の12分についに均衡を破られ、先制を許してしまう。
皆が肩を落としてしまう中、裕樹は健に向けて「諦めるな!」と言葉を向けようとした時だった。
「まだだ! 絶対取り返すぞ! みんな!」
力強く放った言葉は皆を奮い立たせるには充分だった。
裕樹は健の姿を見て、いつかの現年代別代表キャプテンの姿を思い出した。
「諦めずに走りきる姿は丈瑠そのものだ。
お前のプレーは今ここに継承されてるよ。
良かったな、お前のサッカー伝わってるよ。」
試合は結局敗れてしまい、人目をはばからず大粒の涙を流す子供たちを見てもらい泣きしそうになる大人達だが裕樹はそれぞれの選手と握手を交わし、ミーティングでこう語った。
「みんなこれからジュニアユースなり中体連なりでサッカーは続けると思う。
ほかのスポーツを始めるヤツもいるかもしれない。
でも大切なのは必死に取り組む事を忘れない事だ。
コーチも来年から見習いの学校の先生になるんだ。
ここでみんなで約束しよう、置かれた場所でそれぞれが頑張る事。
今日の試合みたいに諦めない事。」
青すぎる空を見上げながら、棗 裕樹は遠く海の向こうの親友に向けて思いを馳せた。
お待たせしました!
次回からいよいよ新章突入!




