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番外編「開いた距離感、開いた閉塞感」

 年代別世界大会を自宅のテレビで見ていたのは帝国大学3回生の天津川(あまつがわ)省吾(しょうご)である。

 画面越しに映る懸上丈留とは中学生からのライバルであるが、天津川と彼の距離感は大きく開いてしまったと、周りの人間は天津川を貶した。

 しかし、彼はブレていなかった。

 高校時代に足りなかったフィジカルを大学入学を機に徹底的に鍛え上げた、プレースタイルも大きく変え、花形のプレーメーカーから汗かきタイプのボランチに変貌を遂げていた。

 そしてユニバーシアードという、大学生を対象とした日本代表に初選出されたのだ。


「精が出るな」

 居残りでウエイトに励んでいた天津川に声を掛けたのは4年生で、既に一部クラブ入団が内定している、嵯峨野(さがの)(りく)である。

「お疲れっす、先輩も今からやってくんでしょ?」



 天津川と嵯峨野の間には確かな信頼関係があった。

 入部当初の天津川はプレースタイルを変えたきっかけにもなる帝国大学サッカー部のレベルの高さに挫折してしまう。

 しかしそんな中でも練習をサボることなく努力し続けた姿に嵯峨野は目にかけ、アドバイスを送っていた。

 そしてプレースタイルを確立した天津川は3回生進級と同時にスタメンを確保、獅子奮迅の活躍を見せていた。

 そんな中届いたユニバーシアード召集令状、二人揃って選出された。



「ところで、お前あの懸上丈留と友達なんだって?」

 ベンチプレスを途中で止めて天津川は返答する。

「はい。

 まぁどんどん先に行かれてますけど、俺は今でもライバルだって信じてます。

 いつか追い越します!」

 その答えを聞いた嵯峨野は天津川と拳を突き合わせ、「俺たちも一応代表だ、結果残すぞ。」


 ユニバーシアードの代表選手が集められ、団結式が行われた。

 かつて天津川や丈留と鎬を削ったGK盾垣やDFの貴瀬も招集されている。

「よお天津川久しぶりだな。」

「つってもリーグ戦で顔合わせしてるけどな。」

「盾垣、貴瀬、よろしくな。」

 3人の話題は専ら年代別代表の話に移る。

 丈留や樫原の大会通しての活躍、丈留には海外移籍の噂、樫原もイングランド名門へのレンタルバックが決まったニュースに刺激を受けたのは当然ながら天津川だけではないようだ。


 迎えた大会。

 今年は日本で開催される事もあって通常より注目度の高い大会になったが、如何せんヨーロッパ列  強国は主力選手がほとんどおらず、日本にとってあまり実りある大会になるか不安視されていたが、 天津川たちにとっては国内外のスカウトにアピールする絶好の場、モチベーションは高かった。

 この大会で天津川は目を見張る大活躍、3ゴール4アシストで大会MVPに輝き、日本は数大会ぶりの優勝を飾った。


 大会後、有明ヴィルモッツの強化部権田川から天津川の下に連絡が入る。

「久しぶりだね、天津川君。」

「お久しぶりです。」

 権田川は佇まいを直し、右手を差し伸べた。

「ぜひ、うちのチームに来てくれ。

 卒業後という訳ではなく、今すぐチームに合流してほしい。」

 天津川は、一瞬硬直した後、真っ直ぐな瞳で権田川に目を合わせ、「どうしてですか?」と投げかけた。

「丈留が海外移籍する、その後釜に君を指名したいんだ。

 伸び次第で君は丈留と肩を並べる、追い越すことも可能だと私は信じているんだ。」

 一息ついて、天津川は呟いた。

「ヤツの後釜ですか。」

「実は高校時代君をとるか丈留をとるかで悩んだんだ。

 大学に入った君の事は追いかけさせてもらってたよ。

 高校時代に足りなかった、客観性を君は身につけた。

 今では丈留に負けずとも劣らないプレーヤーになったと思う。」

 権田川の真摯な態度に腹を決めた天津川は要請を承諾し、契約書にサイン。

 中退という形でプロの世界に飛び込む事になった。


 後日、大学への手続きを済ませ、先輩や監督への挨拶を済ませ、寮を引き上げた天津川の下へ着信が入った。

「丈留か、お前の後は任せてもらうぜ。」

「ああ、プロ入りおめでとう!! ヴィルモッツの事頼んだぜ、本当に良いチームだからお前も気に入ると思う。」

「おう、待ってろよ丈留、すぐにお前のレベルに追いついてみせるからな!」


 スマホをジャージのポケットにしまった一人のサッカー青年はライバルの背中を追いかけるかのように駆け出して行った。

天津川の短編でした。

駆け足になりましたが、あまり話数を割きたくなかったので、少々雑な展開になってしまいました。

次回もう1話番外編を挟みたいと思います。

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