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年代別代表編「世界へ」

 空港のロビー、国内組は帰国し、リーグ戦への喧騒へと戦いの場を戻す。

 海外組の南川さん、樫原はそれぞれ所属チームに直接合流するため、別便に乗り込む事になる。

 長く険しかった世界大会だが、それは体感の話、実際は一ヶ月を要していない。

 国内組はシーズン真っ只中、海外組は来たるシーズンに向け、すぐにキャンプインや、樫原のようなビッククラブではワールドツアーを回る事になる。

 俺はというと現地フランスに残り、俺と代理人契約を結びたいというモレイロと会談を行っていた。



 三つ星を獲得しているというパリのホテルにあるカフェで1人の日系フランス人が俺の前に腰掛けている、スーツ姿に髭が良く似合う渋い顔だ。

「早速だけど、タケル君。

 君はどこの国でプレーしたい? ざっとオファーが来ているのは4つのチームだ。」

 モレイロはタブレット片手にそれぞれのチームを紹介していく。

 魅力的な額面を提示するチーム、出場機会を約束してくれるチーム。

「すいません、俺。

 カミさんが妊娠したばっかりでできるだけそばに居てやりたいんです。」

 実際すぐにでも日本に帰りたかったが、佐武監督からの紹介という事もあり、話だけでもという事でモレイロと会うことになった。

「これは、そんな時にすまなかった。

 けれどこれは君と家族だけの問題じゃない、日本サッカーの未来の話でもあるんだ。

 もちろん、家族のサポートは約束するよ。

 私の妻も日本人で海外暮らしも長い、必要とあらば君の近くに住むことも可能だ。」

 モレイロは青い大きな瞳で俺をじっと見つめて訴えかける。熱量が痛い程伝わる。

「わかりました。

 三日以内にもう一度連絡します。

 一度日本に持ち帰って考えます。」

 俺は晴れてモレイロと代理人契約を結び、海外へのオファーを検討することを約束した。



 帰国して直行したのは自宅。

 美由を力強く抱きしめた。

「お兄ちゃん! 遅い! もっと早く帰ってきなさいよ!」

 視線が1点に注がれていたため、自宅に妹の光希がいる事に叱責を受けてから気付いた。

「光希ちゃん、いいのよ。

 お疲れ様、惜しかったね。」

 どこか申し訳なさそうに微笑み、俺を労う美由。

「ありがとう、美由。」

 子どもの名前は美由と既に決めてある。

「来未」来る未来という由来だ。


 こんな時にサッカーの話をするのはどうかと思ったし、恐らく光希にまた叱られるだろうと思いながら切り出した。

「あのさ、実は海外でプレーするか誘われてるんだ。」

 俺は恐る恐る2人の表情を見ると驚いた事に美由も光希も笑っていた。

「そんな事だろうと思ったわよ。

 あんなプレーして声かかからないわけないもんね。

 私はどこへでもついて行くわ。

 この子が落ち着いたら追いかけるわ。」

優しくお腹を擦りながら微笑む美由に光希が謝り込む。そして俺に言い放った。

「お兄ちゃんの世界一のサッカー選手か、私の世界一のラーメン。どっちが先か勝負よ!!」

温かな時間が自室を包み込んだ。



 怪我から復帰して充実のシーズンを終え、迎えたこの年代別代表の初招集。

 勇士さんの代表離脱、海外組との融合、強敵揃いのグループリーグ、世界基準を知ったアルゼンチンやスペインとの戦い、そしてフランスとの激闘。

 いくつもの試練と向き合った一ヶ月間は俺、いや日本チームにとって大きな自身と経験を与えた。

 この大会はそれぞれの飛躍を遂げる試金石になった!


年代別代表編 完


ようやく年代別代表編も完結!

次回から新展開、の前に数話、番外編を挟もうと思います。

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