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年代別代表編「零れ落ちる」

 後半25分、南川さんの折り返し、俺はジェルマンをスクリーンして樫原の前にボールが転がり込む。

 樫原はトラップを浮かせてしまう、いや、これはわざとだろう。

 これにコネがシュートブロックで飛び込む。

「させるか!」

 樫原は浮いたボールを右足でコネの股下にボールを叩きつけ、ジャンピングボレーの体勢に入る。

「くそっ!」

「あとは頼んだよ。」

 ジェルマンが慌てて樫原に寄せたが、それも樫原の中では計算通りだった。

 空中に浮いた体勢でシュートからパスに切り替える。

 目の前にボールが現れる、心が体と一致する、目の前のボールに俺は体を投げ出した。

 体のどこに当たったのかわからない、確かな事は触れると反則の部位で触れていない事、そしてボールはゴールラインを越えていた事。


 逆転。スタンドには悲鳴が鳴り響く。

 何人ものチームメイトが俺の上にのしかかる、苦しくて息ができないが不快感は無く、文字通り歓喜に身を寄せた。

 そして立ち上がるとすぐさま、殊勲のパスを出した樫原の下へ駆け寄り抱擁を交わそうとする。

 しかし、俺は樫原の異変に気付く。

 どうやら今の捨て身のプレーで先日痛めた箇所が再び悲鳴を上げたようだ。

 俺はベンチに素早く腕で×と示し、樫原を伺った。

「大丈夫か? ナイスパスだった! あとは任せろ!」

「全く、無理させるよ。

 全面的に信頼する。」

 樫原の目に光るモノが見えた、普段あれだけクールな男がこれほどまで悔しさと責任感を表す事は俺にとっても驚きだった。

 残り20分弱、絶対に追いつかれる訳にはいかない。

 俺は手を叩き声を上げる、つられて皆もしきりにマークの確認と集中の二文字を叫ぶ。


 リスタートのキックオフ。フランスはセンターライン上に全ての選手を並べ、ボールを後ろに下げると一気に前線へ選手が走り込む。

 カンパネラはダイレクトで綺麗なバックスピンのかかったロングボールを放り込む。

「任せろ!」

 飛び出した金澤がフランスの大男たちの頭上へ手を伸ばしエリア外へで大きくパンチングし、事なきを得る。

 このプレーで一度は意気消沈したフランスサポーターも息を吹き返し、大声援を送る。

 フランスが取ってきたプレーはなりふり構わないパワープレーだった。

 クロウをCFの位置に配置し、セットプレー時にはGK以外の選手をボックス内に上げ、スクランブル状態を作り出す。


「ありゃ反則だよ、上手さだったら俺達のチームの方が上だし、パスワークも負けない。

 でも奴らは戦術にこだわらない。

 未完成だけどそこが怖い、なんでもやってくるんだよ。

 点をとるためには。」

 スタンドのガルシアが愚痴垂れるのも無理はない、事実として年代別欧州選手権でスペインはフランスにリードしながら残り10分間で三失点を喫し、逆転負けしたからだ。

「よぉ、ガルシア、試合をどう見る? カタギハラを失うのは辛いよなぁ。

 かなり効いていたし攻撃の起点はすべて奴だった。

 ここからジャパンはどう立ち回るか。」

 ガルシアに声を掛けた陽気な男はアルゼンチンのロドス、彼らは同じスペインリーグ所属で旧知の仲である。

「そうだな、けど精神的支柱のタケルがいる、それにジャパンも無策では無さそうだぜ?」


 不規則な交代に時間がかかっていた俺たちだったが、ここでようやくスコアボードに背番号が点灯され、交代選手が準備できたようだ。

 怪我でベンチに下がった樫原に代わって投入されたのはなんとヤンコ岡崎。

大会で出場機会のなかったストライカーを秋山監督は大胆にも空中戦対策としてディフェンスに配置した。

 もちろん、スカウティングの段階から画策されていたプランで、非公開練習では何度もヤンコをディフェンスラインに入れた守備練習をこなしてきた。

 俺は彼が緊張で固くなっていないか不安だったが、杞憂だったようだ。

「ヤンコ、落ち着いていこう。

 お前ならやれる。」

「うっす、任せてください!」


 試合はフランスのセットプレーからリスタートする。

 ジェルマンは簡単にサルビアへと展開。

 サルビアは間髪入れずに利き足ではない右足でクロスを送る。

 これにしっかりジャンプ一番ヤンコが頭で弾き出す。

 しかし、ジェルマンがこれも回収。

 俺は素早くプレスをかけるが簡単に裁かれるのでボールを奪いに行けない。

「カケガミタケル、キミとボクは実力もプレースタイルも似ているけど一つだけボクに適わないのは判断のスピードだよ。」

「煽ってるのか知らないけど、いちいち動揺している暇もない、なんてたってうちの天才に試合を任されているんだ。」

 俺の言葉に一瞬だけジェルマンは驚いたが、そこからすぐに大胆不敵に笑った。

「スイーパー・キーパー」(サッカー用語紹介参照)の異名を持つ、カンパネラも一気に日本陣に入り込んでビルドアップに参加、ジェルマンからボールを受け、ロングボールを蹴り出す。

 これにクロウがヤンコと競り、ジェルマンの前にボールがこぼれる。

 これをダイレクトで叩くが俺がシュートブロックに入り、再びボールはクロウの下へ流れ込む。


 数秒後スタジアムは興奮の坩堝に包まれる。

 ボールはネットを揺らす。

 クロウはボレーを打つギリギリで右足から左足にボールを持ち替えシュート。

 ヤンコは体勢を崩されながら必死に飛び込む。

 クロウが左足で放ったボールにヤンコの右足がわずかに接触する。

 金澤が飛び込んだ方向と逆にボールは飛んでしまった。

 フランスが劇的な同点ゴールを決めた時、電光掲示板にはアディショナルタイム2分が表示されていた。


梅雨の暑さは嫌になりますよね。。

一応次回で決着予定です!!

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