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高校編「規格外」

新登場人物

樫原・・・鳳条高校のキャプテン。圧倒的な実力を持ち卒業後はイングランド名門へ

光宗・・・鳳条高校のゴールゲッター。プロ入りが噂される。

盾垣・・・鳳条高校の正GK。U-18日本代表。

貴瀬・・・鳳条高校センターバック。国体選手。

 東岸に勝った俺たちは完全に勢いに乗り準決勝も突破、なんと決勝に辿りついた。

 決勝までの1週間校内は俺たちの話題で持ちきりだった。


 前日の練習前に疲れたように裕樹が言う。

「いやーしっかし調子狂うなぁ。俺さぁ、初めて女の子の方から声かけられたよ。」

「ハハハ、いい事じゃんか。何より嬉しそうじゃないか。」

「いいよなー、丈瑠は元からちょくちょく告られてるから余裕だな。」

「え!?そうなの?なんで教えてくれなかったのよ!」

 聞き耳を立てていた美由が会話に割り込んでくる。

「女のお前には言わねぇだろ。」

「また私だけ仲間はずれ! 知らない!」

 むくれて美由が水を汲みに行った、何を怒っているのかよく分からない。

 ボールを頭に乗せる裕樹。

「おい、丈瑠。

 選手権終わったら告れよ。」

「裕樹。

 いいのか?」

「今更何言ってんだよ、美由はお前のこと好きなんだから。」

「どうだかな。」

 頭に乗せていたボールは地面にバウンドし、俺たちは練習へと向かった。



 木枯らしが吹き、冬到来間近の今日。

 俺達は予選決勝のピッチに立つ。

 決勝戦の舞台はプロの試合でも使われる立派な競技場。

 スタンドに多くの観衆に包まれた。

 一部が騒めく。

「おいっあれ天津川省吾じゃねぇか?」

「負けんなよ、丈瑠。あいつらはやべぇぞ。」

 山の麓高校側のスタンド応援席はチームカラーの赤で染まる。

「見て見て! あれが私のお兄ちゃん!

 お兄ちゃん頑張ってね!! お母さんとお父さんも見に来てるよっ!」

 親父と母さんの遺影を持った光希の姿が見える、友だちを連れてきているみたいだ。


 決勝の相手は鳳条(ほうじょう)高校。

 プロ入りが噂される快速ストライカー・光宗(みつむね)とU-18日本代表のGK盾垣(たてがき)、国体選手のセンターバック貴瀬(たかせ)、そして中盤の要で10番を背負い、卒業後はイングランドの名門クラブ内定の神童・樫原(かたぎはら)

 この4本柱を中心に圧倒的なパスワークで夏に全国制覇を果たしている超強豪だ。

 東岸も夏には4-0で屈している。

 キックオフ直前の整列時に樫原と握手を交わす。

「君が懸上君か。

 期待してるよ、僕たちをどこまで楽しませてくれるかな?」

「樫原、負けないぜ、俺たちは。」

「ふん、健闘を祈るよ。」

 いよいよキックオフ、天を仰いでつぶやいた。

「親父、母さん。見ててくれ。」


 試合が始まると同時に会場が騒めく。

 スタンドの天津川も立ち上がる。

「マジかよ、あいつら!おもしれぇじゃねぇか!」

 俺たちはディフェンスラインから一気に押し上げハイプレスをかける。

 そしてあっという間にサイドに追い込みボールを奪おうとする。

 しかし4本柱のセンターバック貴瀬が冷静に指示を送る。

「捨てろ!」

 素早く俺たちの自陣にボールを蹴り込む。

 樫原が俺に囁く。

 俺たちの奇襲にも至って冷静だ。

「ブロックをいきなり固めるなんて品の無いことしてこなかったことは評価させてもらうよ。」

「ああ、もちろんこれぐらいで勝てるなんて思っちゃいないさ。」

 山の麓がボールを持つと、俺は素早くセンターバックのサクとシンの間に下がりボールを受ける。

「カネやん、シバ!上がれ!」

 両サイドバックを同じタイミングで一気にオーバーラップさせ、一瞬サイドに気を取られた相手守備陣。

 マークを剥がした裕樹にグラウンダーでボールを送る。

 樫原だけはこれを読んでいた。

「甘いね。ん?」

 しかし俺たちはこれも織り込み済み。

 中盤でコンビを組むハラが樫原の前でボールをフリック、これを俺がダイレクトでゴールを狙った。

 山の麓応援席が立ち上がる。

「やった!お兄ちゃん!入っ...」

 鋭く弧を描いたシュートはゴール右上に向かう。

「うおっあぶねー!」

 4本柱のGK盾垣は一瞬反応が遅れたものの、間一髪弾き、こぼれ球もがっちり掴んだ。

 ベンチの横で美由が悔しがる。

「あー!惜しいっ、」

 しかし、何事も無かったかのようにすぐに鳳条はポゼッションを始める。

「あー駄目だ!こいつら4本柱以外もくっそうめぇーな。」

 裕樹のチェイシングも簡単にいなされ、あっという間に山の麓陣に侵入、人と人の間に常にボールを通される。

「光宗、寝てないよね!?」

「遅いんだよ、ほんとに眠かったぞ。」

 樫原がアーリー気味に入れた浮き球のパスが光宗に向かう。

「サク!クリアだ!」

 サクが体を寄せに行った所をなんと光宗が浮いたままのボールをワンタッチで反転、そのまま体を 倒してボレーシュートを放つ。

 スタンドが静まり返る。

 放たれたシュートはポストを叩いた。

「あー!外しちゃった〜。」

「帰ったらダッシュ10本だよ、光宗。」

「そりゃないでしょカタギ〜。」

 天津川が苦虫を噛み潰すような表情で語る。

「盾垣は驚異的な瞬発力、貴瀬は冷静な指示と判断力、光宗は快速と規格外のシュートセンス、そして樫原はパーフェクトプレイヤー、すべてのプレーに寸分のブレもない。

 そりゃ4本柱なんて呼ばれ方するぜ。」


そこから圧倒的にボールを支配され俺たちは体力を削られる。

それでも瀬戸際でしのぎ続け前半を終えようとしたアディショナルタイムの事だった。

ボールを回していた鳳条だったがセンターバック近くまでボールを受けに来た樫原が突如ドリブルを開始する。

「一人で行くな、外に追いやれ!」

「悪くない指示だ、相手が僕じゃなければね。」

 両足に吸い付くようなタッチでスルスルとディフェンスを交わしバイタルエリアまで侵入する。

「僕に人数かけすぎだよ、まぁ決めるけどね。」

「させるか...何!?」

 樫原はブロックに入ったリキの足にわざとボールをぶつけ光宗のもとにボールを届ける。

「毎度ありっ!」


 鳳条先制。

 会場全体がため息に包まれる。

 同時に前半終了のホイッスルが吹かれる。

 会場に足を運んでいた謎の男がニヤリと笑う。

「これは、心折れるね、普通のメンタリティーでは。

 ん、天津川君か、どう見る?」

 謎の男と知り合いだった天津川が挨拶に向かっていたようだ。

「こんにちは。

 あいつら見てくださいよ、誰も下向いてない、目が死んでないです。

 あいつらはやりますよ。」

「そうか、後半楽しみだな。」

(それでこそ、俺が見込んだ才能だ、懸上君。この試合で君をウチが獲るか決めるんだ)


 仕切り直して後半円陣を組んだ。

「勝つぞ!」

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