年代別代表編「伏兵のゴール」
フランスのエース、クロウのスーパーゴールで先制されてしまった俺たち。
攻撃もフランスの強固なブロックを前にチャンスを作れず、光宗の裏への飛び出しもカンパネラに対応されてしまう。
さらに完全アウェーの中心理的にも揺さぶられる中、何とか焦れるなと俺はチームを鼓舞し続ける。
そんな苦しい前半終了間際、意外な人物のプレーが飛び出す。
左サイドでボールを持った滝口が中の樫原に楔のボールを打ち込む、ボールを受けた樫原は斜めにドリブルを開始する。
「樫原、落とせ!」
「うん。」
樫原はドリブルで開けたスペースにヒールキックでボールをフリックする。
走り込んだのは滝口、30m離れた距離からダイレクトでシュートを放つ、虹のような綺麗な放物線を描いたシュートはゴール右上を捉える。
少し前のポジションをとっていたカンパネラは慌ててバックステップを踏み懸命に手を伸ばすが時すでに遅し。
滝口の今大会初ゴールで同点。
スタンドには落胆のため息が零れる、日本ベンチは一気に飛び出し歓喜。
「武器は隠しておくもんだろ!」
滝口は鼻を大きく膨らまし拳を突き上げた。
スタンドのガルシアもこのゴールには感心したようだ。
「今のゴールは良かったな、カンパネラの特性をうまくついたゴールだな。
あの15番、一緒に試合した時は目立たなかったが、意外と頭脳的な選手だ。」
追い付かれたフランスだがチームに焦りはない、失点の原因となったカンパネラもおどけて見せる。
「いやぁ、すまねぇ。」
「次はないぞ。」
主将のジェルマンがドスの効いた声を出すと、流石のカンパネラも「すいません。」と反省した。
その間クロウはセンターバックのコネと話し合っていた。
リスタート後すぐに前半は終了、ここはホームチームアウェーチーム関係なく会場は大きな拍手に包まれた。
ロッカールーム、秋山監督はホワイトボードに二文字を書いた。
「勝て」
「俺から出せる指示はこれだけだ。
ここまで来たんだ、戦術の落とし込みは十分だ。
最後勝負分けるのはメンタルだ。あと45分、俺と一緒に闘ってくれ。」
力強く込められた言葉、今大会幾度と無く監督からは勇気を貰った。
負ける訳にはいかない、監督を胴上げするぞ。
この場にいる誰もが確信したに違いない。
俺はもう1度大きな円陣を作って大きな声を張り上げた。
前半と比べても遜色ない好条件、ピッチコンディション。
短く刈られた芝にハーフタイム中水が撒かれ、再びボールが運びやすくなる。
後半はフランスチームのキックオフで幕を開ける。
主審のコッローニの笛がなった瞬間、ジェルマンはセンターバックのコネまでボールを下げる。
「くっそ、舐めやがって。」
「勝てる所で勝負する、当たり前だろ。」
クロウが身長で15cmほど上回る香山さんの元へポジションを移しボールを呼び込む。
コネから届けられたボールに苦労が競り勝ち、ボールを落とす。
クロウが流れたスペースに走り込んだのはサルビア、と思われたが樫原が素早くボールを奪い、左サイドに捌く。
クロウは舌打ちをした後樫原に詰め寄った。
「少しはやるようになったじゃねぇか。」
上から目線の言葉だが涼し気に樫原はあしらう。
「言ったろ? 僕はお前の知ってる僕じゃない。
それに今大会君なんかよりよっぽど尊敬に値する彼に色々教わったんだよ。」
クロウは殺意を滲ませたような表情で樫原を睨み付けたがジェルマンに「やめろ」と制された。
試合はフランスがボールを保持するも、俺達の一糸乱れない組織ディフェンスを前にチャンスを作れない展開が続く。
「クソが!」
「頭を冷やすんだね。」
クロウがフィジカルを活かして強引シュートを放とうとした時に樫原が右足でボールをつつき、股抜きのような形でボールを奪う。
樫原は右サイドの南川さんに展開、カウンターとなり南川さんはサルビアとの1対1を迎える。
「縦だろ?」
「どうかな。」
南川さんはボールを切り返し、左足でクロスをあげるふりをして再び切り返す、これを高速で二回繰り返す。
サルビアは状態を完全に崩され、尻もちをついてしまう。
「まるで、アンクルブレイクだ。」
俺たちを苦しめたスペインの至宝もスタンドで思わず唸った。
サルビアを交わした南川さんはペナルティエリア内エンドライン近くに突入。
「ミナさん、こっちや!」
猛スピードでニアサイドに光宗が突っ込むのを南川さんはチラリと確認しながら送ったボールは光宗の斜め後ろを通過し、走り込んだ俺が突っ込む。
「君なら来ると思ったよ。」
「俺もお前なら読んでると思ったぜ。」
俺はジェルマンがこのボールをかっさらいに来た所をスクリーン。
フリーの樫原下へボールがこぼれる。
次の瞬間樫原が見せたプレーで数年前の選手権予選の決勝のスーパープレーがフラッシュバックするのであった。
昨日のイラク戦、正直W杯予選に相応しくない環境でしたよね。。




