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年代別代表編「決戦前夜」

 スペインを下し、ついに決勝戦へと駒を進めた俺たちは翌日のフリーをそれぞれ楽しんでいた。

 チームメイトと近くの街を散歩する人、美味しい料理を食べに行く人。

 家族と画面越しの会話を楽しむ人もいた。

 俺は佐武監督からの不在着信を折り返していた。

 六回のコールを挟んだ後監督は電話に出た。

「もしもし、丈瑠か。

 決勝頑張れよ。

 実は話がある、決勝が終わり次第すぐに帰国せず、そのまま現地で俺の知り合いと会ってほしい。」

 おれはイマイチ、ピンとこなかったが「はい、わかりました。」とだけ、返事して佐武監督との通話を終えた。

 それからドアをノックする音がしたので、開けると樫原が立っていた。

「ちょっと風にあたりに行かないか?」


 俺たちは決勝の地でスタッドパルクが位置するリヨンという港町を歩いた。

 潮風が吹き、 心地よい気候をよそに足並みを揃え、樫原が話を切り出した。

「決勝は県大会ぶりかい?」

 俺が初めて樫原のプレーを見たのが高校時代、三年前の選手権予選決勝だった。

 当時の衝撃は今でも忘れない。

「ああ、まさかお前と一緒にプレーできる機会が出来るなんてな、それも日の丸背負ってだよ。」

 樫原は大胆不敵に笑い、「僕は君が必ずこのレベルに来ると思ってたけどね」と返した。

 あの頃からどれほどの距離が縮まったのだろうか、今大会の樫原が見せる異次元のプレーには脱帽で、差は広がってしまった気がする。

「僕はこれほどまでプレーに高鳴りを覚えるのは初めてでね。

 つまりは丈瑠、明日はなんとしても勝ちたい。

 お前の泥臭いプレーを見習うよ。」

 いつもクールで華麗な樫原がこれ程の言葉を残すのは珍しく、俺は少し驚いたが「もちろんだ」と答えた。

 すると、固く誓い合った俺たちの前に一人の黒人が姿を見せた。


「ふん、樫原か。

 オマエがスタメンのチームなんて大したことないだろ。

 なんでガルシアたちはこんなヤツらに負けたんだ。」

 フランス四銃士で唯一俺たちの準決勝を観戦しなかった男、彼こそがキディアンセ=クロウだ。

 筋骨隆々、分厚いまな板とパンパンの太ももからは想像出来ないようなシルキータッチ。

 樫原のレンタル元のガンナーズですでにレギュラーを張っており、今大会のMVP最右翼だ。

「失礼するな、クロウ。

 僕はお前が知ってる僕じゃない。あの時とは違うんだよ、それに僕らには丈瑠もいるからね。」

 クロウは鼻で笑った後、そのギラりとした眼光が俺に向けられる。

「ふん、こいつがカケガミか。

 まぁせいぜい楽しませてくれ、俺をがっかりさせるなよ。」

 不興を買うような発言を繰り返すスタープレイヤーは大きいストライドを動かし遠ざかっていった。

「丈瑠、すまない。

 不快だったろう?」

「いや、まぁむしろ燃えたよ。

 ますます負けられないな、うちの10番を馬鹿にされて黙ってる訳にはいかない。」

 俺の決意を感じた樫原は同意を示した。


 一方、浪速のストライカーは時を同じくして務さんと宿舎でトランプをしていた。

「務さん、明日楽しみやな。」

 光宗の手札から一枚とった務さんが言葉を返す。

「ああ、正直ここまで来れると思ってなかった。

 今大会の丈瑠の成長は目を見張るものがある。」

「ですねー、俺も驚いてます。」

「はい、上がりだ。」

 悔しそうに頭を抱えながら「もう1回!」と叫ぶ光宗を無視しで務さんは窓を眺めた。

「明日はなんとしても勝つ、勇士と約束したからな。」


 日が昇り、朝を迎える。

 気持ちのいい朝だ、緊張して眠れないなんて事が昔は沢山あったけど今日は体調万全だ。

 俺はスマホの電源をつけメッセージアプリを確認した後、美由と生まれてくる子どもに誓った。

「父さん頑張ってくるな。」


 会場に移動する中、俺たちは異常な光景を目にする。

 バスを数千人にも及ぶフランスサポーターが取り囲む。

 瓶を投げつけてくる者もいた。

 平和ボケしてる日本人には見たことも無い光景だった。

 しかし、その光景はあるひとりの男によって改善された。

「下らない事をしないでほしい。

 僕達は勝つよ、だから彼らの邪魔しないで僕達のサポートしてくれ。

 あなた達に望むのはそれだけだ。」

 フランス四銃士のキャプテンジェルマンだった、彼の一声で暴徒化していたサポーターは平静を取り戻し、捌けていった。

 俺は主将として感謝の意を述べたが、ジェルマンはとりつくしまもなく会場へと足を向けた。

「なんか今の奴キザやな、なんとなくカタギに似とるわ。」

 光宗はこう言った後、ギョッとして振り向いたが、高い緊張状態にあった樫原には声も届かず事なきを得た。


 会場に入っても待ち受けていたのは大きなブーイング。

 フランスより先にウォーミングアップを始めたが会場は地鳴りのするほどの怒声が響いた。

 そしてフランスチームがピッチに姿を現すと打って変わって大歓声。

 これほどまでのアウェーを経験したのは海外でプレー経験のある樫原と南川さんだけだろう。


 運命の試合開始まで2時間前、この後起こる、激戦を現時点で予想したフランスサポーターはいなかった。

年代別代表編もいよいよ佳境に突入です!!

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