年代別代表編「デッドライン」
クリアしては拾われて、ボールを繋がれる展開がもう何十分経過しただろうか。
恐らく後半は防戦一方で相手陣内でプレーしたのは数分程度だ。
それでもファイナルサードで体を張り続け何とか粘る展開。
時計針は残り5分を示す。
監督はコンパクトに、外は捨てて中を固めろと必死に声を出す。
俺は残り数分、守りきれる自信が無かった。
ジリジリと崖っぷちに立たされている感覚が抜けなかった。
そんな中でのサポーターの激励に奮い立たされた俺は激しい身振りを見せ仲間を鼓舞した。
「死ぬ気で守るぞ! 体張るぞ!」
この姿に触発されたチームメイトも活気を取り戻しスペインも迎え撃つ体制を整えた。
87分のトレスのボレーは務さんが顔面でシュートブロック、こぼれ球にガルシアが突っ込むも俺がギリギリで外に弾き出す。
攻とも守とも言えない一瞬の間が生まれる、浪速のスピードスターはこの時を狙っていた。
「待ったで! ディフェンス楽にしたるから見とけよ!」
こぼれたボールをかっさらい激走、ディフェンス1人を交わす。
そしてスペイン陣内に残っていたミネイロとの1対1を迎え、スピードを活かしボールを大きく前に蹴りだしペナルティーエリアに侵入する。
スペインキーパーのジュネスが飛び出した所をループで狙い、ゴールへ向けてボールが転がる。
「もらったで!」
ついに、追加点。
…ゲームオーバーと思われたがボールはポスト直撃。
このボールを諦めなかったミネイロが拾い再び攻撃に転じる。
第4審が掲げたボードには3の文字。
残りワンプレーの所でスペインにビックチャンスが生まれる。
ミネイロがグラウンダーのロングパスをガルシアに届ける。
「絶対行かせねぇぞ!」
「フッ、釣れた。」
これをガルシアがワントラップした後、務さんの頭上を越えるシャペウという技で交わし、さらに寄せてきた佐野さんの股下を通す。
ペナルティエリアに侵入し、キーパー金澤と最終局面を迎えたガルシアは誰もいない右側にボールを落とす、走り込んでいたのはなんとミネイロだった。
右足でゴールに流し込む。
ベンチで樫原が叫ぶ、「まだだ! 丈瑠!」
俺は直前で気づいていた、ガルシアの眼球運動を。
微かに右を見ていた、感覚で右にボールを出したのだろう。
ボールとゴール。
ミネイロの金澤の位置からコースを逆算し、ゴールライン上へと飛び込む。
「届いてくれ!!」
ボールは俺の右臀部を掠めてポストに跳ね返る、こぼれ球に一気に両チーム5選手が飛び込む。
「これ以上、俺の庭を荒らしてもらったら困るんだ。」
ボールに反応したのは金澤だった、がっちりボールを掴む。
「ゲームオーバーだ。」
フランスの至宝ジェルマンの声と共に笛がなった。
2-1、決勝進出。
死力を尽くした両チームの選手達が次々に倒れ込む。
俺はベンチの樫原に右の拳を突き上げた。
整列と握手を交わした後、ガルシアとミネイロが駆け寄ってくる。
「負けたよ。
最後よくパスだってわかったな。」
「ほんとだよ、延長なら勝てたのに。」
実際ミネイロの言う通りだった、延長戦スペインの勢いを止めることは出来なかっただろう。
文字通り瀬戸際での勝利だった。
「お前達の分まで絶対勝つからな!」
俺はもう1度握手を交わし、日本サポーターの下へと挨拶に向かった。
スタンドではモレイロが電話の処理に追われていた。
フランスチームは楽しそうに引き上げていった。
道中サルビアがからかうように問いかける。
「いやージェルマン、どうよ? 決勝。」
「ジャパンはやはり侮れない、だが勝つのは俺たちだ。
カケガミにはなにもさせない。
カンパネラ、キープレーヤーはお前だ。」
ジェルマンは視線をカンパネラへと移す、ドレッドヘアーのカンパネラは面倒臭そうに頷く。
「わーかってるよ、それよりあいつは本当に試合見るのが嫌いだな。」
半ば呆れ気味に語った通り、フランス四銃士のうち一人は会場には姿を表さなかった。
試合後宿舎に帰った俺達はすぐにリカバリーを済ませた後、監督から翌日は完全フリーにすると通達された。
部屋に戻り携帯を見ると、ヴィルモッツの佐武監督の着信があった。
U-20ワールドカップ始まりましたね!!
贔屓のチームからも出場選手がいるので応援したいです!!




