年代別代表編「鳥籠崩し」
スペイン・・・無敵艦隊。ヨーロッパ最強の呼び声高いチーム。
前半からポゼッションを高めるスペイン、両チームとも爪を研ぐかのように静かに時間は流れる。
この試合展開に先程試合を終えたフランスチームも真剣な表情で視線を送る。
「ジャパンがここまで来たのは予想外だったな、この試合も拮抗してるよ。」
「まぁどっちが来ても俺達の相手じゃないさ。」
前半30分を過ぎた頃俺は、自陣でクリアする際にスペインのハイラインを突き、ルーズボールを蹴り込む。
しかし素早くミネイロがカバーリングに入るがここで俺たちはゲーゲンプレスを開始。
ボールを奪った南川さんがクロスを放り込む。
飛び込んだのは務さん。
相手キーパーの股下を抜く鮮やかなボレーシュートで先制に成功する。
スタンドのフランスチームも舌を巻く。
「なるほどな、見たかジェルマン?」
「ああ、なんで逆サイドに展開しないのかって思ってたけど。」
「そういうことだな。
一回の攻撃を同サイドから仕掛ける事でゲーゲンプレスの効率をさらにあげてる。」
「スペインはまんまと策にハマったわけだ。」
左から腰掛けるサルビア、ジェルマン、カンパネラが語り合う。
「そしてそれを可能にしてるのが。」
「カケガミタケルか。
ダイナモタイプかと思ったけど相当頭も切れるぜ、絶妙なバランスを取ってる。」
しかしここで慌てないのもスペイン、再びボールポゼッションに入る。
ガルシアがボール仕掛けては捌きを繰り返しバイタルに侵入、間合いを図らせないテンポでボールをつなぐ。
「追いつくぜジャポン。」
「させない!」
俺は気持ちよくボールを回させているように見せて実は自分たちの網の中にガルシアをかけていた、機を見て仕掛けたタックルでボールを奪う、そしてここから中央突破を図る。
これにはスタンドのスカウト陣も驚いたようだ。
「おいおいモレイロ、なんてこった。
メンタルの選手だと思ってたけどサッカーインテリジェンスが素晴らしい。」
「ああ、正直ここまでの選手とは思わなかった。
こりゃ大会後忙しくなりそうだよ。」
「樫原!」
「任せろ!」
樫原とワンツーパスでスペイン中盤を掻い潜る。
「くそっ!させるか…しまった!」
ペナルティエリアに入る手前でミネイロが慌ててチャージに入るも樫原に対してこのチャージはディレイ気味に入りFK。
日本に追加点のチャンスが訪れるがチームに歓声はない、樫原が右足を抑えピッチに倒れ込んだ。
「おい、大丈夫か!?」
「ああ、何とかなりそうかな。」
苦悶の表情を浮かべる樫原、立ち上がると再び右足を抑えた。
俺はベンチに担架を求める。
「勝手な事をするな! 僕はまだやれる!」
「エエから一回看てもらい! 丈留かてカタギの気持ちはわかってる!」
「その通りだ、冷静になれ。」
激昂する樫原を光宗と務さんがなだめる。
一旦ベンチに引いた樫原、試合はリスタートする。
キッカー位置には南川さんと務さんが立つ、務さんは左足でもプレースキックをこなすことが出来るためここは南川さんが左に立った。
「南川、どうする?」
「そうだな、壁の外から巻くか、あるいはグラウンダーか。」
レフェリーの笛が鳴る、先に助走に入ったのは務さん。
壁は動かない、しかしそのまま務さんはペナルティエリアに向けて走り抜ける。
「ここだ! 寄越せ!」
「完璧だ、よく引き付けた!」
南川さんは斜めに走る務さんの元へパスを送りこれを務さんが南川さんへフリック。
南川さんがこれをダイレクトで狙う。
弾丸ライナーで放たれたシュートは右ポストを叩いて左ネットを揺らす。
ビューティフルゴールにスタンドは大きく揺れる。
日本ベンチに走る南川さん、ベンチメンバーも飛び出しモッシュ状態。
そんな中冷静に俺はベンチ横で待機していた樫原と話す。
「この試合はダメみたいだ、後半からスペインは出てくるから頼むぞ。」
「ああ、決勝には絶対戻って来い! 待っててくれ!」
前半2-0で終えた俺たち、充実の表情を浮かべるが相反して、スペインチームには重苦しい雰囲気が漂っていたが、後半は別の顔を見せることになる。
暑い、暑いですよ。




