高校編 「ライバル」
新登場人物
天津川省吾・・・東岸のキャプテン。ポジションはトップ下。
選手権予選も気がつけばベスト8。
述べ120校に登る出場校も8校まで絞られた。
ここまで勝ち上がってきたチームに「フロック」はない。
まさに群雄割拠、その中でも俺たち山の麓高校はダークホースとして注目を集めている。
「丈瑠、久しぶりだな。」
「ああ、まさかお前とやれるとは思わなかったよ。」
「温い環境を選んでサッカーを諦めたのかと思ったけど、嬉しいぜ。ここまで来たのが実力かそれともフロックなのか見せてもらおうじゃないか。」
「まぁ反論は試合で示すよ、お互いフェアプレーでな。」
いきなり挑発気味に話しかけてきたのは旧知の中であるプレイヤーだ。
東岸高校のキャプテン、トップ下を務める天津川省吾。
中学時代からライバルとして凌ぎを削ってきた。
地区選抜でも共にプレーをしたが、俺が地元の高校に進んだ事に深く失望をして、それ以降は顔をあわせても俺に対して無視を貫いてきた。
その後、県内屈指の有力選手になった天津川は複数大学から声をかけられているらしい。
東岸高校は天津川を中心に組み立てサイドからクロスを上げてくるタイプのチーム。
以前にも前線に長身の選手を据えて力技で相手をねじ伏せてきた。
そこに天津川の創造性が加わり、内からでも外からでも得点パターンのある、とても厄介なチームに なった。
当然俺たちからして格上のチームである。
試合は戦前の予想通り劣勢を強いられる。
俺は天津川のマンマークにつくが軽くあしらわれ、なかなか起点を潰せない。
「どうした丈瑠?そんなもんか?俺とお前じゃサッカーに費やしてきた時間が比べ物にならないからな、当然だ。」
「かもな。」
ことある事に執拗に挑発してくる天津川だが、俺は相手にしない。
そして前半30分、先制されてしまう。
右サイドのアーリークロスセンターフォワードに頭で落とされ、俺のマークを外した天津川に鮮やかに決められてしまう。
その後もさらに圧倒されたが何とか粘り前半を1-0で折り返す。
「すまん、みんな俺がマーク離した。」
うなだれる俺に裕樹が肩を叩く。
「いやいや逆によくやってるよ、あんな化け物。丈瑠以外誰が付くんだよ?んなことより、後半どうするよ?」
「ああ、実は一つ秘策がある。」
後半が始まると東岸は畳み掛けてくる。
天津川が攻撃のタクトを振るう。
「ふん、いつまでも亀ならこっちのもんだぜ。ん!?何だこれ、舐めてんのか。」
俺たちはサイドの守備を捨てた。
正しく言うと、サイドの守備をサイドハーフに任せ、サイドバックを中に絞らせ中を固めた。
サイドハーフのタツとリキはハーフタイム俺が送った指示を巡らせる。
(これでいいんだよな!?丈留!)
「サイドのタツとリキは距離をとってくれ、抜かれなければいい、クロスは諦めてくれ。牽制するだけでいい。」
波のように打ってくるクロスを俺たちは弾き続けた。
次第に東岸はイラつき始め、クロスの精度が下がって来る。
そこで俺たちは前に出る。
精度の下がったクロスをトラップし、センターバックのサクが一瞬ボールを持つ余裕が出来る。
そして裕樹が相手のサイドバックが上がったスペースに走り込みボールを呼び込む。
「待ってました!初めて前向けたぜ。」
前半からボールを持てなかった裕樹がようやく得意のドリブルを開始する。
「裕樹ここだ!」
俺は一心不乱にゴール前まで一気に駆け上がった。
「しまった!アイツに付け!」
天津川が慌てて指示を送るが、逆効果。
これが裕樹のドリブルコースを作ってしまい突破を許し、ペナルティエリアでファール。
さらに決定機を阻止した東岸センターバックは一発レッド。
「よっしゃぁ!頼んだぜ丈瑠!」
ガッツポーズをしながら俺にボールを手渡す裕樹。
「え?俺が蹴るの?」
「ほらベンチ見てみろよ。」
ベンチを見ると控え、監督、美由。みんなが俺を見ている。
「丈瑠ー!決めてくれ!」
一呼吸置きボールをセット。
俺は迷わず右上に蹴りこみ同点。
一人少なくなった東岸は焦り、さらにプレーの精度が落ちる。
「くそっ。俺がひとりで持ち込むしか・・・!」
天津川のタッチが大きくなった所を俺が奪い取り、前線にロングボール。
一人少ない東岸ディフェンスのスペースを突き、サイドから斜めに走り込んだタツがキーパーとの 一対一を制して逆転。
値千金の勝ち越しゴールに立ってはもみくしゃにされる。
そして残された時間俺たちは死力を尽くしてディフェンス。
アディショナルタイム、天津川が迎えたチャンスも俺がブロック。
「くそっ、何でこいつバテないんだよ。」
タイムアップ。
観客席からざわめきが起こる。
「おいおいマジかよ」という声がチラつき、困惑の反応が大半を占める。
ピッチ上には東岸の選手達が崩れ落ちている。
一人ひとりを引き起こす天津川。
「悪かったな、丈瑠。今まで酷かった。本気でやってたんだな、サッカー。」
「いや、確かにお前の言う通り俺は自分の実力に自信が持てなくて強豪には行かなかった。でも今は約束した人がいるんだ。全国に行くって。」
「そうか。いずれにせよお前は俺のライバルだ、これからもずっとな。」
頭を下げた天津川と力強い握手を交わした。
天津川は最後までキャプテンらしく、下を向かずに応援団に向けて挨拶に向かった。
大波乱の余韻漂う会場。
東岸のメンバー入り叶わなかった応援団は涙を流しながら選手を労う。
俺たちの戦術を講評する高校サッカーマニアたち、何番がかっこよかったと語る女子高生たち。
そしてこれから俺の人生を大きく動かす人物がいた。
「懸上丈瑠。おもしろい選手じゃねーか。」
カタカナキャラクターはいわゆるモブというものです、悪しからず。