年代別代表編「博覧会」
ウルグアイ· · ·南米の強豪国、コロンビアを抑えて予選を通過してきた。カジェらのテクニカルなプレーが特徴。
七月上旬、快晴。
気温22℃、湿度も少なく最高のコンディション。
会場は第二試合の優勝候補フランスの試合前とあって、なかなかの客入りである。
俺達日本はグループB、ウルグアイ、ベルギー、ザンビアと同居する。
初陣の相手は南米の雄、ウルグアイだ。
フレシキブルな選手が多く、南米特有の駆け引きを特徴としたチームである。
ロッカーアウト直前で円陣を組む。
「みんな、頼りないキャプテンかもしれないけど付いてきてくれ! 絶対勝つぞ!」
日本のスタメンはGKは国内1部サルポーネ隠岐の守護神金澤。
右サイドバックに王者バルカンズの俊英、香山さん。
センターバックに函館スピアーの佐野さん、バリアー二の皆藤さん、左サイドバックにコンバートされた滝口。
中盤逆三角形3人は底に俺、右インサイドに務さん、左インサイドに樫原。
左ウイングに有田カイザーズの左利きスピードスター原山さん。
右ウイングには南川さん、オランダ一部リーグ所属だ。
そしてセンターフォワードに光宗というイレブンで構成された。
試合が始まりいきなり攻勢を掛けてきたのはウルグアイ。
テクニック豊かなトップ下のカジェという選手を軸に攻撃を組み立てる。
独特の間合いを持つ南米選手のボールキープになかなかボールを奪えない。
するとウルグアイは急に攻撃のスイッチを入れる。
縦に鋭いボールをつけると、センターフォワードはこれをわざと浮いたボールでかカジェへフリック。
カジェはドライブ回転のかかったシュートでゴールを脅かす。
しかし、これは金澤がしっかりとキャッチする。
「慌てるな! 相手のペースに合わせるな、後ろは守ってやるから堂々としろ!」
金澤は20歳ながら、所属チームでゴールマウスを守っている。経験に裏打ちされた確かな技術がある。
前半中盤あたりにさしかかり、ようやく俺達はボールを落ち着いて回すことに成功し、チャンスを作る。
右ウイングの南川さんがグラウンダーのクロスを送る。
「いただき!」
ニアサイドで軸足の裏を通すトリッキーなシュートを放った光宗。
思わず日本ベンチが立ち上がる。
しかし、このシュートはギリギリでキーパーが反応しポストを叩き、こぼれ球をサイドバックが拾う。
「行くぞ!」
相手キーパーがショートパスでリスタートしたボールに素早くプレスをかける。
「ゲーゲンプレス」
今大会から導入した守備戦術だ。
ボールホルダーに対して数人で素早くプレスをかけてボールを奪う、ドイツの某チームが編み出した戦術。
俺は一気にサイドまでプレッシャーをかけボールを奪い、迅速に中央の樫原へパスを送る。
「ありがとう、丈瑠。」
このボールを左足ダイレクトでシュート。
スワーブのかかったボールは綺麗な放物線を描き右サイドネットへ。
ネットが揺れる音。
ビューティフルゴールに会場は大歓声。
王子様と形容される樫原らしいゴールと裏腹に本人はもみくちゃにされる。
「くそっ! このやろ!」
務さんが頭を叩く、半分力がこもっている。
先にゴールを決められたことが嬉しくもあり悔しいんだろう。
前半はこのまま折り返し、ロッカールームで秋山監督がさらなる発破をかける。
「いい前半だった。
でももっともっと個人が目立ってもいいぞ。
この試合は世界中からスカウトが来てる、謂わば博覧会だ。
お前達の力を見せてやれ!」
この発言に感化された俺達はさらに躍動する。
右サイドの南川さんは巧みなボールタッチでサイドを切り裂き、務さんはツボを抑えたゲームメイクと献身的な守備でチームを助ける。
さらに光宗は前半の汚名返上と言わんばかりのツーゴール、2つともアシストは樫原だ。
それから後半の41分、俺は焦りの見えたウルグアイが自陣にも関わらずの雑なドリブルを引っ掛け、単独で持ち込み駄目押しゴール。
試合終了。
初戦を4-0の解消で終えた俺達はグループ首位に経った。
その日の夜リカバリーを済ませ、ミーティングを行う。
次の相手はグループ最大のタレント軍団ベルギーだ。
スター候補生をずらりと並べたイレブンのVTRをチェックした後、監督がこう言った。
「明日はあの戦術で行くぞ。」
いやー、Jリーグ開幕。




