年代別代表編「覚悟の裏付け」
明けましておめでとうございます
国内リーグが開幕し、前半戦の中盤に差し掛かる6月。
7月と8月に跨って開かれる年代別代表世界大会、メンバー発表前最後の親善試合。
俺は所属クラブでも、好調をキープしチームメイトの勇士さん、光宗と共にメンバー入りした。
アフリカの猛者コートジボワールを迎え撃つこの一戦は、俺達が所属するヴィルモッツのホームスタジアムで行われることもあって3人は大きな拍手で迎え入れられた。
先発メンバーはセンターバックの勇士さん、ボランチは俺と滝口、トップ下に務さん。光宗はツートップの1枚に入った。
試 合は高いテンションで幕を開ける。
開始3分、相手ボールを奪った俺は素早くルックアップ。
「丈留、ロングボールや!」
光宗の声を受け、俺は高いラインを敷いてきた相手ディフェンスの後方にボールを蹴り入れる。
「よっしゃ! 頂き……って届くんかいな!」
関西弁のストライカーが思わずツッコミを入れてしまうほどのコートジボワールディフェンス。
抜け出した光宗がシュートを放つものの、ディフェンスが長い手足を活かしたスライディングでシュートをブロックする。
「務さん、バイタルで受けれますか?」
「ああ、だけどまだシンプルに捌こう。
丈留、それから滝口。
俺たち3人の距離感はコンパクトに行こう。」
俺達はワンタッチでボールを繋ぐことを重視してポゼッションを高めて行く。
しかし、フィジカルに長けるコートジボワールのプレーはここでも発揮される。
ロングボール1本で完全にディフェンスラインの裏を取ってしまう。
「織込み済みだ。」
サイドラインに構える副審のフラッグが上がる。
「ナイスです! 勇士さん!」
勇士さんを中心とした巧みなラインコントロールで相手FWをオフサイドにかけ、事なきを終える。
「行くぞ!」
勇士さんな素早くリスタートし、ボールを受けた俺は一気にボールを持ち上がる、俺の奇襲に相手ディフェンスは意表をつかれ、一気に相手陣内に侵入。
「丈留、こっちや!」
ボールを呼び込む光宗の方向にルックアップ、しかし逆方向にボールを送り出す。
「よく引きつけたな、そしてナイスパスだ。」
ペナルティエリア右手前でボールを受けた務さんがダイレクトでシュートを放つ。
乾いたポストの音が響く、こぼれ球に反応していたのは猛然と走り込んでいた滝口だった。
先制日本。
スタジアムにこだまする大歓声。
中盤3人の絡んだ見事な先制ゴール。
このまま前半を折り返す。
ハーフタイムを終え俺はポジションを勤さんと横並びのシャドーに移した。
そして試合はこの後ゴールを重ねた日本代表が4-0の圧勝という出来すぎとも言えるスコアで終えた。
試合後取材エリアで合宿から密着していたジャーナリスト、五藤さんから取材を受ける。
「おめでとうございます、懸上選手。」
「ありがとうございます。」
「ずばり、世界大会の目標は?」
俺に質問してくるジャーナリストの目は真っ直ぐに俺を見ていた。
「まぁまず、メンバーに入ることですね、それから僕はベスト8が目標です。」
「なるほど、現実的な目標ですね。」
こちらを試しているのか、少し腹の中の見えない人に見えたが、俺は素直に返事することにした。
「はい。」
五藤持っていた手帳を閉じて語気を強める。
「わかりました、では期待してます!」
硬い握手を交わし引き上げるとバスに乗り込む前に、監督が俺を呼び出す。
「丈留、お前は日本を背負う覚悟があるか?」
突然の質問に俺は少し驚いたが、表情を引き締める。
「はい、僕に出来る最大限を発揮したいです。」
「そうか、ではお前に告げたい事がある。」
監督あ一呼吸してから俺の方を叩いた。
「本大会はお前がキャプテンだ。」
唐突の通達に俺は思わずえっ、と声を上げてしまった。
「実は勇士の海外移籍が決まったらしい。
移籍先チームからの強い要望で大会に帯同できないことがさっき協会から伝えられた。」
勇士さんの海外移籍は噂されていたし、チーム内でもおそらく来シーズンからはという話であった が、年代別大会には参加すると考えられていただけに、正直驚きは隠せなかった。
「どうだ、やれるか?」
目を閉じて考えを巡らせる。
世界のピッチで日本のユニフォームを纏い右腕にアームバンドをつける。
プレッシャーも計り知れないだろう、生前の親父の言葉を思い出した。
(迷ったら難しいを選べ)
「やります。やらせて下さい。」
ー週が明け、世界大会に向けたメンバーが発表された。
順当に俺や光宗、務さんなどは招集されていた。
そしてそのメンバーの記載にはあの男の名前を入っていた。
今年もよろしくお願いします




