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プロ編「爪痕」

 日が沈み始める夕方五時頃。

 ここ、ヴィルモッツアレーナでは首位チームの厳島バルカンズと俺達は有明ヴィルモッツのゲームが開かれていて、いよいよ後半が始まる。


「さぁ、早めに追い付かしてもらうぜ!」

 早速実村さんがボールを持ち上がる。

 相変わらず繊細なタッチでドリブルを続けるが、ジョナサンが素早く寄せ、一対一の局面を迎える。

「ヌカセナイョ」

「1人とかヤケクソか?」

 両足のテクニックを駆使してジョナサンを交わそうとする。

 しかしこれはプラン通りだった。

「ジョナサン、ナイスワンサイドカット。」

「なにっ、」

 長身のジョナサンの後ろに隠れていた俺は実村さんが交わそうとした瞬間を狙いボールを奪う。

 1人に対して仕掛けるドリブルをしているなら、狙い所は絞れる、ジョナサンが逆を取られた方に寄せればいいと二人で決めた作戦だ。

 ボールを奪った俺は素早く視線を前線に移す。

「光宗!」

「おうよ、ナイスボールやで!」

 浪速の快速のストライカーへ一気にロングボールを送る。

 光宗は絶妙な抜け出しでペナルティエリアでボールを受け、チャンスを迎える。

「よっしゃ頂き!...なんつって。

 今日二回目やでこれ!シュート打ちたいわ!」

「よく我慢したぞ、光宗!」

 シュート体勢に入っていた光宗は直前でフェイントをかけ、中にボールを折り返す、その先には修さん。

 ヴィルモッツ2点目。

 ベンチからも選手が飛び出し狂喜乱舞、サポーターも大興奮を見せる。

 バルカンズは10試合ぶりの複数失点。

 試合はこのままヴィルモッツが勝ち点3を上げると思われた。


 後半30分。

 バルカンズ同点。

 実村さん圧巻の5分間での2ゴール。

 1点目は俺とジョナサンが寄せ切る前にクロスのこぼれ球を右足トゥーキックでペナルティー外からグランダーのシュート。

 2点目は30mのFKを叩き込んだ。

「お前たちは確かに強くなった。

 だがそれは俺たちも同然だ。

 あと15分死ぬ気でかかってこい。」

「さすが現役代表レギュラーですね。

 でも、今日は絶対勝ちます!」


 リスタート後激しく攻め合う両チーム。

 実村さんのスルーパスを受けたバルカンズストライカーの レイモンドが抜け出しかけるも勇士さんが体を投げ出しギリギリで防ぐ。

「ちっ、しぶといな。」

「みんな勝つぞ!走り負けんな!」


 時計の針は45分に差し掛かりアディショナルタイム3分を示す電光ボードを第四審が掲げる。

 実村さんがドリブルを開始し、スルスルと抜けて勇士さんも交わす。

「くそっ、何でこの時間にこのキレが。」

「終わりだ!」

 抜け出したバルカンズの10番がシュート体制に入った時だった。

「体力とスピードなら負けへんで!」

「何っ、なんでお前がここに!?」

 なんとスライディングでカットしたのはFWの光宗だった。

「上がれ! 丈留!」


 光宗が下がって空いたスペースに一気に俺は走り込む。

 しかし、ディフェンスもカバーリングして相手センターバックと一対一を迎える。

 俺の頭にはあるプレーがよぎる。

 修さんが良く練習からやっているプレーだ。

「入ってくれ!!」

 空間を切り裂く地を這うシュート。

 乾いた音が響く。

 ボールの行方は枠線を越えてネットを揺らした。

 スタンドが揺れ動くかのような歓声。

 ヴィルモッツイレブン全員が俺をなぎ通しのしかかる。

 同時に試合終了のホイッスル。


「監督! やりましたね、残留!!」

「ありがとう修! おまえが若手達をしっかり見ていてくれたからだ!」

 後半ベンチに下がった修さんが監督と熱い抱擁を交わす。

 ピッチでは整列し両チームがお互いの健闘を称え合う。

「お疲れ様、今日は負けたぜ、またやろうな。

 代表で一緒にプレー出来るのも楽しみにしてるよ。」

「ありがとうございます!」

 挨拶が終わると再び勇士さんや光宗達が俺を祝福する。

「いや、しかしたまげたで最後のシュート! あれ狙ったんか?」

「ああ。修さんのプレー参考にした。」

 俺は一対一を迎えた時ボールを右にずらし、相手ディフェンスが左にステップを踏んだ瞬間の股下を打ち抜いた。

 ブラインドとなったキーパーは反応が遅れた。


 克也さんが俺の頭をぽんぽんと叩き語りかける。

「ありがとう、丈留。

 これで心置きなく引退できる。最高のラストゲームになったよ。」

「克也さん何言ってるんですか、まだシーズンはありますよ!」

「いや、来週からヤツが復帰する。

 それに俺も右膝が限界なんだ、今日またやっちまったらしい。」

 パンパンに膨らんだ膝の痛々しさと裏腹に克也さんはにこやかな笑顔を見せた。


 敗れたバルカンズだったがこの次の節で快勝して優勝したのは言うまでもない。

 俺たちバルカンズは見事残留を確定させ、サポーターの元へ勝利の報告。

 お立ち台に登った俺は遅れて向かう。

 最高の報告をすることが出来た。


 

「チャンスを与えてやるか。

 多くはないが。」

 晴れ晴れしい姿をロイヤルボックスから見つめるスーツの男は不敵に笑う。

更新ペース落ちてしまい申し訳ないです。

次回から新展開です!!

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