プロ編「信じる」
連日のEURO最高です。
俺のミスで1ー2と逆転された後半25分、交代盤に照らされた番号は俺ではなく修さんだった。
去り際、修さんは俺の肩を叩く。
「丈瑠! 佐武さんはお前のこと信じてるんだ、俺もだ! 後は頼んだぞ!」
「はい! 必ず取り返します!」
そして修さんはピッチを退く際、光宗にもアドバイスを送る。
「落ち着けよ、ここからはお前の時間だ。
暴れてこい!」
「うっす!」
ベンチではこの交代策が物議を醸す。
「監督! なんで丈瑠じゃないんですか!?」
「あいつはまだ走れてる、必ずチャンスが来る。」
「根拠は何ですか!? あなたの首が懸かってるんですよ!?」
「勘だ、責任は俺がとるんだ。
任せてくれ。」
ベンチに修さんがフォローに入る。
「監督の判断は正しいです。
俺は怪我明けだしコンディション的にもこの辺がいいとこでした。」
「ナイスゴールだったぞ修。
光宗のプレーも見てやってくれ。」
後半30分を過ぎてもなかなか同点に追い付けない。
しかし、闘志みなぎるこの男のゴールでヴィルモッツは反撃の狼煙をあげる。
コーナーキックから勇士さんがジャンプ一番、競り勝ち同点。
勇士さんのもとに皆が集まるが、すぐに自陣に戻り、声を張り上げる。
「まただ! 今日は絶対勝つぞ! みんな絶対に走り負けんなよ!」
リスタート後に追いつかれたバリアー二も攻撃に転じ、試合はオープンな展開になる。
お互いに一歩も譲らない試合が動いたのは後半42分。
「こっちも負けられないぞ!」
先崎が遠目から弾丸ミドルを放つがクロスバー。
このボールに素早く反応した勇士さんが一気にロングボール、抜け出したのは光宗。
「ナイスボールやで、勇士さん!」
光宗はカバーリングのディフェンスも交わし、難しい角度になったが、GKとの一対一のチャンスを迎える。
この時光宗の頭によぎるのは交代時での一コマ、修さんのアドバイス。
「チャンスを迎えた時、シュートコースを切られたら中を見ろ。
必ずそこに走り込んでくる体力バカがいる。」
角度のないところからマイナスにグラウンダーのボールを送る。
「やっぱお前か、丈留! 決めてや!」
初めてのプロの試合、緊張とそして長い時間走り続けた足が悲鳴を上げ、足が攣ってもつれる。
「くっそ、届けー!」
滑り込みながら渾身の右足を伸ばす。
……つま先にボールが触れる。
ボールは静かにネットを揺らしヴィルモッツ再逆転。
アウェースタンドは狂喜乱舞、倒れ込んだ俺の上になだれ込むように乗りかかるチームメイト。
ピッチサイドを見ると俺の背番号が点灯していた。
ベンチに戻ると監督が右手を差し出す。
「よくやった!...と言いたいけど今日は70点だな!」
辛辣な評価とは裏腹に最高の笑顔を見せてくれた。
修さんが荒っぽく俺の頭をなでる。
「オウンゴールに失点絡みにアシストとゴール、お前のデビュー戦やばいな! ナイスゴール!」
「アシストは修さんのおかげですよ!」
先崎さんが放った苦し紛れのシュートは枠を外れたところで試合終了。
ヴィルモッツは開幕6試合目に初めて勝利を掴んだ。
胸をなでおろすヴィルモッツの面々。
試合のマンオブザマッチには俺が選ばれた。
試合後にチームメイトで喜びを分かち合い、光宗に感謝を告げた。
「光宗、ナイスパス。
よく見てくれたな!」
「修さんがくれたアドバイスがあったからやで。
けっ、FWが最後に花持たせるなんてありえへんで。
あのおっちゃんはちゃっかり点とってるし。」
「誰がおっさんだ?」
修さんが光宗の頭を掴み低い声を発する。
「ゲッ」
「ゲッじゃねえよ。
せっかく褒めてやろうと思ったのに。」
試合後にも関わらず元気に2人はピッチを走り回った。
センターサークル付近では若きキャプテン同士が検討を讃え合う。
「勇士、お疲れ!」
「お疲れ! いや、焦った。
正直負けるかと思ったよ。」
「くーっ、悔しいな! まぁ、予選よろしくな!
それより、あいつ呼んでくれよ、お前のとこのルーキー。」
談笑する勇士さんと先崎さんのもとに呼ばれる。
「はじめまして、懸上丈留です!」
「お前なかなかおもしれぇじゃねぇか、気に入ったぞ! またよろしくな、代表で待ってる!」
代表という言葉に俺はピンとこかなったが、ひと先ずは頷き一礼した。
帰りのチームバスに乗り込み携帯を見ると祝電メールに溢れていた。
「from美由 おめでとう♡一段落ついたら電話してね!」
「from光希 お兄ちゃん!!
ほんとおめでとう! パパとママも喜んでるよ! 私も頑張るからね(*´˘`*)」
「from裕樹 おめでとう!! 見たぜ!お前は俺の誇りだ!
落ち着いたらまたメシ行こーぜ!」
「from天津川 くっそー! また先越されちまった!!
すぐ追いつくからな!!」
一つ一つのメッセージが嬉しく、気持ちを高ぶらせる。
スタートに過ぎないか最高のデビュー戦になった!
そんなデビューを飾った俺だったがこの先に待ち受ける試練をこの時は知る由もなかった。
今回はMr.Childrenの「hypnosis」を聴いて作りました!