海外編「不器用」
イタリアではスーパーを「メルカート」と言う。
新鮮な野菜が並ぶお気に入りのメルカートで妻の美由と買い物を楽しんでいる中、俺にとって嬉しくない人物と遭遇するのであった。
「ゲッ、なんでお前がいるんだよ!」
「ケッ、こっちのセリフだジャポネーゼ。」
声の主はギーク。
開幕戦ドロースタートの戦犯と揶揄されたMFだ。
「なんだよ、お前近く住んでんのか?」
「だったら悪いかよ?休みの日にオメェみたいなヘナチョコと顔合わせるなんてゴメンだよ。」
「脳筋さんに言われたくないね。」
顔を強ばらせ俺を睨むギークに応戦する形で俺は眉間にシワを寄せる。
周囲に緊張が走る、と思いきや隣では和やかな会話が広げられていた。
「あらまぁ、あなたが懸上選手の奥さん!?」
「え?日本語話せるんですか!?」
「もちろん、私は祖母が日本人なの、小学校は日本で暮らしていたの。」
「そうなんですか!!心強いです!」
ギークの隣にいた美女は彼の妻である日系ブラジル人のハナエと言うらしい。
あれよあれよと俺たちの隣で会話を弾ませる2人に俺とギークは口論途中にも関わらずたじろいだ。
「せっかくだからこの後食事しましょう!ねぇ!あなた?」
「ゲッ!嘘だろ!?」
「丈留、もちろん行くわよね?」
「わ、わかったよ。」
メルカートで買い物を済ませ、俺たちは近くのレストランで食事を共にする事になった。
相変わらず俺たちはギクシャクしながらも、仲睦まじい2人に引きづられるように話を合わせる。
そして、ハナエは手に持っていたナイフとフォークを置いて俺を見で話し始める。
「懸上さん、この人みんなに迷惑かけてるでしょ?」
「コラ!余計なこと言ってるだろ!」
日本語が理解できないギークは表情を読み取ってハナエを咎めるが、彼女は構わず日本語で続ける。
「ホントは不器用なだけなんです。あなたみたいにみんなから慕われる人が羨ましくて当たってるだけなんです。分かってあげてください。」
「ハナエさん...。」
「クソっ!ちょっとこい!カケガミ!2人はここで食事を続けてくれ!」
着ている服の色と同じくらいに顔を真っ赤にしたギークは俺を引き連れ、駐車場へと歩いた。
「おい、お前!さっきカミさんから言われた事は忘れろよ!何言われたか知らんが...。」
「無理だね。」
「なんだと!?」
胸ぐらを、掴もうとする手を払い、ギークの胸に拳を当てる。
「ガタガタ口で話しても仕方ないだろ?俺らはプレーで証明するしかない。」
「ケッ、ナマイキ言いやがって。」
そう言いながらギークは再び店内へと歩きだし、俺にカードを放り投げた。
「メルカートの優待パスだ。お前のカミさんに渡してやれ。」
「お前、もしかしていい奴?」
「うるせぇ!」
ー
イタリアリーグが開幕して2ヶ月、俺たちネッズラーリは開幕直後は躓いたものの徐々に調子を取り戻し、順位も3位まで上げてきた。
中盤も最近では俺とジョゼ、ギークの3枚で固定され、保管性は徐向上。
そして今日ホームに迎える相手は首都のビッグクラブ、ローマSC。
今シーズン初めてのビッグマッチが幕を開ける。
Jリーグ今シーズンも始まりましたね!!