海外編「妥協点」
大変ご無沙汰しております...。
イタリアリーグ開幕戦。
俺たちネッズラーロは格下パルマSCに対して思わぬ苦戦を強いられる。
相手ゴールキーパーカリッソのスーパーセーブにも阻まれ、得点が出来ないまま時間が過ぎ、さらにはギークの退場で1人少ないという厳しい展開に。
そして、残り20分。
俺のイタリアデビューが訪れる。
1歩、2歩とピッチコンディションを確かめた。
呼吸を整え、周りを見渡す。
頭の中に思考を張り巡らせ、身体に刷り込む。
すると、投入されて間もないがいきなりピンチが舞い込む。
前がかりにになっていた隙を突かれ、カウンターを受ける。
1人少ない故の広大なスペースを活かしてパルマが牙を剥く。
相手プレイヤーは4人、対してディフェンス陣は俺含めて3人。
数的不利の状況。
ボールに対してアプローチをかけようとした俺にセンターバックのピンツィが指示を送る。
「ぼかせ!!」
俺は前に傾いた重心を後ろに下げ、パスコースを寸断しながらボールホルダーへの距離を詰めていく。
慌てた相手プレイヤーはスルーパスを送る。
「上出来だ。タケル。」
マンバンの髪型がトレードマークのセンターバックはこれをインターセプトし、走り出した俺にボールを預ける。
俺は素早く前線にフィードしようとルックアップしたが、思い留まる。
「それでいい。タケル。」
ベンチでは監督が静かに頷き、ロマネスクも賛同した。
「見えてましたね。」
「ああ。ピッチインした時にえらく周りを見渡していたが、そういう事か。面白い男だ。」
「味方の呼吸状態や、疲労感をチェックしていたんですね。おそらく今速攻をかけたとして、クオリティーは上がらなかった、中途半端な仕掛けはカウンターの危険を呼び込みますからね。」
2人の言う通り、俺はジョゼや周りのプレイヤーの疲労度を加味したプレーを選択した。1度ペースを下げ、遅効へと移る。
そして、ジョゼと緩やかなワンツーでボールを受けると、相手ディフェンスが1度息を吐いた。
そ走り出していた一人の男へとパスを送る。
「元気有り余ってんだろ?」
「ナイスだ、タケル!」
ソレンティーニが1人走り出していた。
足に吸い付く絶妙なトラップ。
ついに均衡を打ち崩す。そう思えた。
しかし今日のカリッソは驚異的だった。
ソレンティーニのループシュートを驚異的瞬発力で弾くとこぼれ球も素早く反応しキャッチ。
カリッソは化身の如くオーラを放っていた。
そしてとうとう最後までネッズラーロがゴールを陥れることは無かった。
スタジアムにはブーイングが鳴り響いた、中でもギークへの罵倒を叫ぶ者がいた。昨シーズンから所属するギークは通算退場試合がこれで4に増えた。
ロッカールームに着いたチームメイト達も堪らずギークを責めた。
「お前いい加減にしろよ!!」
「ケッ、悪かったよォ。」
不貞腐れるギークに右サイドバックのジョアンが掴みかかる。
「お前...!!」
ドンと大きく音が響く、壁を叩く音だ。
「やめろ、見苦しいぞ。」
ジョゼは静かに呟いたが、声は震え、怒りがひしひしと伝わってくる。
「みんな!上手くいかない時に個人に責任を追求するのは弱い奴らのすることだろ?色々言いたいことあるかもしれないが、次に向けて修正しよう。」
歴戦のキャプテン、ロマネスクの言葉には説得力がある。
皆は声を荒らげるのをやめ、俯いた。
そしてギークは薄ら笑いを浮かべ、ロッカールームを後にしたが、追うものはいなかった。
「タケル!すまねぇ...。俺が決めてたら。」
ソレンティーニは申し訳なさそうに両手を合わせた。
あのチャンスを決めていれば勝っていただろうが、今日はカリッソを褒めるしかない、それくらいベテランゴールキーパーは当たっていた。
俺のイタリアデビューはチームとしては30点、個人としては60点と言ったところだろうか、長いシーズンが幕を開けた。
ー
次の日、俺は市内のスーパーマーケットで美由と共に買い物に出掛けていた。
新鮮なトマトを使ってパスタでも作ろうと、綺麗な赤に手を伸ばすとゴツゴツした手とぶつかる。
「ゲッ!なんでお前がここにいるんだよ!!」
前日のドロースタートの戦犯の男が目の前に立っていた。
長い投稿期間になりました...。
インフルエンザを発症したり、仕事が忙しかったりとなかなか更新できずに...。
無理ない程度に今後も更新しますので何卒お計ら頂ければ...!