海外編「プライド」
イタリアリーグ開幕戦はミラノスタジアムにて開かれる。
昨年、インターナショナル杯で戦ったこのピッチが俺にとってのホームスタジアムになるのだから不思議なものだ。
上空は晴れ渡り、現地時間14:00キックオフ予定のスタンドは青黒のユニフォームに身を包んだ大観衆で埋め尽くされた、
近年はトリノFCがリーグを支配、前人未到の8連覇中だ。
そんな一強時代に穴を穿つべく、俺たちは最高のスタートを切る必要がある。
開幕戦の対戦相手はパルマSC、10年前までは優勝候補にも上がっていた古豪だが、近年はエレベータークラブに成り下がり、昨シーズンもなんとか残留を決めたクラブだ。
対する俺たちネッズラーロFCはプレシーズンを思うような成績で終えることが出来なかったがシーズンが始まると話は別。
負けられない一戦を俺はベンチからまずは見送る事になった。
「タケル、すまない。様子を見させてくれ。」
リッソーニは俺がベンチに座る前にひと声掛けてからピッチサイドに立ち、自慢の白髭をさすった。
「ふぅ。ベンチなのは仕方ないけど、アイツがスタメンなのは何だがいけ好かねぇぜ、なぁタケル?」
新加入仲間のイタリア系ウェールズ人ソレンティーニは俺に愚痴垂れたが、正直わからないでもない、犬猿の仲であるギークのスタメンには首をかしげる想いがあった。
「まぁ、チャンスを待とう。」
しかし、新シーズンが始まる期待感とは裏腹に試合は重苦しい展開で進んだ。
攻撃的なプレイヤーが最も苦しむと言われるこのリーグでは1点の重みは明らかだ。
さらに対戦相手が、プロビンチャなら尚更である。
彼らは阿吽の呼吸でディフェンラインを整え、それを崩すのは容易ではない。
さらに相手ゴールキーパーは42歳の大ベテラン、カリッソ。
ボスニア人守護神はビッグクラブキラーとして知られ、この日は大当たり。
エリア外からのシュートも尽く弾かれた。
そして恐れていた事が後半開始後に起こる。
イーブンのボールをロマネスクがファール、これにイエローカードが提示されると、小競り合いに発展。
「あちゃー。あいつやりやがった。」
ソレンティーニの視線の先にはギーク、相手MFを突き飛ばし1発レッド。
焦りの色が見える中でリッソーニは微動打にせず、俺とソレンティーニを呼び寄せた。
「ソレンティーニ、お前はストライカーのマウリと、タケルはロマネスクと交代だ。」
「えっ!?」
思わず右手で口を覆った。キャプテンのロマネスクは左サイドバック。
「ジョゼを1列上げてお前はワンボランチだ、とにかくこぼれ球を回収。出来るか?」
簡単な仕事では無いことは理解していたが、俺は顎を引いた。
ピッチサイドに立った時に視界に広がる青と黒に身体を震わせた。
試合時間は残り20分。
1人少ない絶体絶命のピンチ、イタリアデビューは思わぬ形で訪れる事になった。
すいません!!!
遅くなりました!!