海外編「新天地」
激闘のインターナショナル杯から1年。
俺は再び、イタリアの地を踏んでいた。
インターナショナル杯が終わり、新シーズンを迎えた俺はモナコSFCで充実のシーズンを送った。
リーグ戦では2連覇とリーグベストイレブン、欧州コンペディションではべスト8の成績を収め、欧州の強豪クラブから多くのオファーが届いた。
ジャンディ監督とキャプテンのバソングからの後押しを受け、俺は移籍を決意した。
そして、選んだ新天地は。
ー
6月下旬、イタリア・ミラノ。
ファッションの街として名高いこの都市には世界的人気のフットボールクラブが2チーム在し、スタジアムは共同で利用している。
1つ目はFCロッソネロ。イタリア人中心のチーム作りが根幹にあり、歴史あるビッグクラブだ。昨シーズンからイタリアの太陽セルジーニョがチームのエースを務める。
そして、2つ目こそ、俺が今回移籍する事になったクラブ。
ネラッズーロFCこちらはロッソネロと対照的に多国籍軍で、全ての人種、国籍に門戸が開かれているチームカラーだ。
俺はこのコンセプトに共感して、ネラッズーロを移籍先として選んだ。
昼から行われる入団会見に向けて、俺は早めにクラブハウスを訪れ、施設を見学していた。
まず向かったのは食堂。クラブハウスが開かれている日は選手やスタッフ、一般客と、誰でも利用できる。
「君が丈留君かい?よろしくね!」
「初めまして、よろしくお願いします!」
近寄りがたく、三ツ星シェフかのようなオーラを放つ風貌とは真逆で物腰の柔らかな話口調の男性。
クラブハウスの中にある食堂の料理長、ジョゼ慎之さんだ。
日本とイタリアのハーフで現地で日本語が話せる数少ない知り合いになりそうだ。
「なんでも困る事があったら教えてよ!」
「ありがとうございます!」
ネッズラーロのクラブハウスは世界でも有数の規模を誇る。
フルコートのピッチが数十個敷き詰められ、下部組織の選手寮も隣接する。
それぞれを見学した俺は最後に室内トレーニング上で軽く汗を流して行った。
タオルを肩にかけ、出口に向かう俺の背中に視線を感じたので俺はすぐさま振り返った。
「初めまして、だな。カケガミタケル」
「いつからいたんだ?」
「最初から。」
全く気づかなかった所か、対面する男からオーラも何も感じなかった。
「俺はソレンティーニ、お前と同じ新加入選手だ。ポジションはFW。」
ウェールズ人だという青年は俺と同じ22歳。
適当に雑談を交わした後、ソレンティーニは不穏な発言を残して去っていった。
「そう言えば、味方でも練習から削りまくるヤツがいるらしいぜ。確かお前と同じポジションだから気をつけろよ。」
ー
俺は澄んだ空気を大きく吸い込んだ。
俺にとってプロ3クラブ目はイタリアの名門、ネッズラーロ。
青黒に身を纏い、頂きを目指す。