プロ編「巡ってきたチャンス」
新登場人物
先崎務・・・バリアー二岡山のエース。U-21の主軸でもある。勇士とは旧知の仲。
ミッドウイーク、週の真ん中に当たる水曜日の夜。
バリアー二岡山のアウェーに乗り込んでナイトゲームの一戦に俺はスタメン抜擢された。
対戦相手のバリアー二岡山は2部昇格三年目のチーム、悲願のトップリーグ昇格を狙うシーズンで、プレーオフ圏内の5位につけている。
相手エースはU-21日本代表の中核を担うトップ下の先崎 務さんだ。
勇士さんとも旧知の仲である。
「勇士! お前んとこは今大変みたいだな。
でも今日は勝たせてもらうぜ。」
「先崎、お前には仕事はさせない。」
両者笑顔の握手には牽制が込められていた。
ホームのバリアー二のフォーメーションは4-2-3-1。
対するヴィルモッツは4-3-3。
俺は中盤の逆三角形の右インサイドハーフ、ワントップには怪我明けの修さんが入った。
光宗はベンチスタート。
「丈瑠! 気負うなよ! やりたいようにやれ、後ろは任せろ!」
「そうだ。
ボールを持って困ったら俺に預けろ!」
前後に構える勇士さんと修さんの存在は心強い。
キックオフ直前俺はいつものように空を見上げた。
「親父、母さん。
見ててくれよ。」
序盤から高いテンションで試合に入ったのはバリアーニ。
先崎さんが自由に動き回り中盤を活性化させる。
俺はゲームに馴染めず、なかなかボールに絡めない。
チャンスを作られるが勇士さんを中心に落ち着いたディフェンスで凌ぐ展開。
しかし以外にも、劣勢ながら先制したのはヴィルモッツだった。
右サイドからのクロスボールのこぼれ球が俺の前に。
「丈瑠! ここだ、ダイレクト!」
修さんが巧みな動き出しで示した所に俺はパスを入れるだけだった。
「頼みます!」
キーパーとの一対一を制し、右隅にシュートを流し込んだ修さんのゴールでヴィルモッツ先制。
「よっしゃぁ!! やりやがったな、丈瑠!」
「ナイスボールだったぞ!!」
チームメイトが一斉に俺の元に集まる。
ベンチの光宗も喜びを爆発させる。
「ナイスボール丈瑠!! 修さんナイッシュー!」
効果的に試合に絡めてない俺だったがこのプレーで俺の身体は軽くなる。
「くそっ! お前やるな!」
先崎に対して怯むことなくプレッシャーを与え自由を与えない。
さらに攻撃にも顔を出し、ミドルを放つなど確かに手応えのあるプレーに成功する。
チームとしても連動した守備で先制以降は相手にシュートを打たせず開幕以来一番の出来で前半を終えた。
集中を緩めないようにと、ロッカールーム佐武監督がチームを引き締める。
「このままで終わらないぞ! バリアー二は後半必ず出てくる、集中切らすなよ!」
さらに監督は後半のピッチに向かう俺に発破をかける。
「後半も思い切ってやれ!責任は全部俺が取る!」
「はい!」
今シーズン過去にない程の充実した前半を過ごしたヴィルモッツだったが、後半落とし穴にハマる。
「丈瑠クリアー!」
「はい!」
バリアーニボールのコーナーキック俺はクリアに向かうが、目の前で相手選手がブラインドになる。
「しまった!」
クリアに失敗して俺の体に当たったボールはゴールイン。
バリアー二同点。
さらにショックを引きずる俺が中盤で不用意にボールを奪われカウンターを喰らい失点。
あっという間に逆転を許してしまう。
「監督! 丈瑠は交代させましょう。
このままじゃあいつもチームも潰れます。」
戦況をじっと見つめた後、監督は光宗を呼んだ。
「光宗! 行くぞ!」
「うっす!」
交代かと思われたがボードの番号は修さんを示していた。
今回はKANA-BOONの「フルドライブ」を聴きながら制作しました。