世界大会編「夢の終わり」
3位決定戦の舞台はナポリ。
グループリーグを戦ったこの地に再び戻っての一戦を俺はスタンドから眺める。
右側ゴール裏スタンドでは日の丸が揺れる。
両チーム共に勝って有終の美を飾りたい一戦を世界中のサッカーファンが見つめる。
前半をリードして折り返す事に成功した日本だったが、後半はオランダの猛攻に曝される事になる。
瀬戸際で凌ぐ展開に思わず俺は手に汗握る。
そして何も出来ない自分の無力さを痛感する。
「やっぱ悔しいなぁ。」
ポツリと呟く舞川さんはただ真っ直ぐに試合を見つめていた。
先輩達の背中を見なければならないと言った舞川さんの背中もまた大きく見えた。
同じピッチに立てなくても心で戦っている、その意味が少しわかった気がする。
そんな中、ピッチサイドで偉大な日本のキャプテンが準備すると、日本サポーターだけでなく、会場から大歓声が上がった。
この日が代表引退試合になる竜崎さんの勇姿をスタジアムに集まった聴衆は目の当たりにする。
とはいえ、試合展開は苦しいままでオランダのウイング、バベルの切れ味鋭い動き出しは右松さんを翻弄する。
様々なタイプのウインガーを今大会体感してきたが、当然サイドバックにかかる負担はとてつもないものだった。
しかし右松さんはギリギリで体を投げ出すことでバベルに自由を与えず、ピンチを未然に防ぐ。
「俺は今大会のMVPを選ぶとしたらアイツだ。ムカつくけど。あいつは日本の元気印だよ。」
犬猿の仲と言われた二人だが、舞川さんは確かに右松さんを認めていた。自分にはないタフネスを持った体を羨むと共に、自らもそうなってみせると語気を強めた。
最後の力を振り絞って守る日本、オープンな試合展開になるという戦前の予想とは裏腹に、日本が先制した以降は拮抗し、互いに薄氷を踏むような試合の流れに会場のお祭りムードもいつしか収まり、固唾を飲んだ。
そして、俺は時計の針がコクコクと進む内にいつの間にか胸が苦しくなって、目には涙が溢れていた。
俺が幼い頃夢見た日本代表がそこにいた。
そしてこのチームの一因なんだ。
そう思えば思うほど力になれなかった悔しさと、次こそはという思いが俺の心の火をいつしか明るく灯していた。
インターナショナル杯は俺をサッカープレイヤーとして、そして一人の男として大きく成長させた。
試合は日本がこのまま勝利し、有終の美を飾ることに成功した。
この戦いぶりは世界中で賞賛され、日本にとって過去最高の3位でインターナショナル杯は閉幕した。
ちなみに決勝ではブラジルがドイツを4-2で降し、4大会ぶりの優勝。王国復権を強く印象づける大会とした。
一ヶ月にわたってカルチョの国イタリアで行われたサッカーの祭典はこうして幕を閉じた。
そして海外組は新シーズンに向け、国内組はリーグ後半戦へ向けて、わずかな休暇を過ごす事になる。
ー
一週間後、俺は母校の体育館に立っていた。
遅くなってしまいました...