世界大会編「オールドファッション」
世界中の猛者が集う大会、インターナショナル杯。
カルチョの国イタリアで行われたこの大会も残す所あと2試合。
現地では決勝戦のドイツ対ブラジルの話題で持ちきりだった。
しかし決勝は翌日、今日は3位決定戦が行われる。
フィギュアスケートのエキシビションほどの緩さはないが、それに似た物があると解説者の修さんは言っていた。
なぜなら3位決定戦は優勝のプレッシャーから解放された選手が躍動し、チームとしても攻撃的な戦術を取ることが多く、オープンな試合展開になる事多いからだ。
決勝戦の前座試合として、エキサイティングな試合を期待される中、俺たち日本とオランダが相見える。
この試合を累積警告でベンチから眺める事になった。
ー
「くそー、出たかったぜ!」
俺の隣に腰掛けるのは舞川さん。
膝の状態を見て、この試合は登録メンバーから外れた、インターナショナル杯は終わろうとも、選手生活は続いていく。
新シーズンを見据えたコンディショニングも代表チームに課される使命だ。
「舞川さん、俺、この場にいていいんでしょうか?」
「まだ馬鹿な事言ってんのか?お前には見る義務がある、それより周りを見渡せ、俺たちこんなとこでサッカーしてんだぜ。」
改めて客観的に見ると、壮観な眺めだ。
人種や国境を飛び越え、様々な肌の色がスタンドを埋め尽くす。
民族衣装を身につけるもの、国旗のフェイスペイントを自慢に踊るもの。
「ロマンだよな。これだからサッカーは辞められない。」
「...」
そうしている内に選手入場。
スターティングメンバーは未来へ向けた11人が選ばれていた。
今大会初先発の金澤がゴールマウスを守り、センターフォワードには光宗、ディフェンラインでは勇士さんとヤンコが入り、この試合が代表引退試合になる竜崎さんはベンチスタート。
そしてキャプテンマークは橋本さんの右腕に巻かれた。
対するオランダは近年の低迷から完全復活。
ドイツには敗れたものの、ここまで今大会最多得点を記録している。
ウイングのバベルをどう抑えるかがこの試合のキーポイントになりそうだ。
日本のインターナショナル杯も最終戦。
キックオフのホイッスルがなった。
試合は予想通りオープンな展開で進む。
バベルの挨拶がわりのロングシュートは金澤が落ち着いてキャッチ。
そのまま低弾道のパントキックで橋本さんの元へボールを届ける。
そして次の瞬間、スタジアムは息を呑む。
ゴールから30mの距離から弓のようにしなった右足がボールをインパクトする。
橋本砲は地を這いゴールネットを揺らす。
今大会1番のスーパーゴールに会場は沈黙の後に興奮の渦を巻き起こした。
「丈留、知ってたか?」
「なんですか?」
「橋本さん、ブラジル戦のあと泣かなかったんだぜ。樫原ですら泣いたのに。」
「え?」
「チームを勝たせられなかった俺に泣く資格はないってさ。あの人、ああ見えて相当な覚悟なんだよ。天才の癖して誰より練習してるからな。」
日本代表の十番を背負い続け、当初は調子のムラが激しいという批判も受けていた橋本さんは自らの弱点を克服し、橋本砲で何度もチームを救ってきた。
そんな橋本さんでさえも、ブラジル戦はチャンスを作れなかった。
「お前はこの試合観なければならない。日本代表の背中をしっかりと見届けろ。」
そう言いながらもやはり舞川さんは悔しそうで、膝の上で拳を握りしめていた。
そして、それを見た俺の心にも再び火が灯り始めていた。
今シーズンのJリーグの残留争いは過去一で面白いのではないでしょうか!